2020年4月アーカイブ

新型コロナウイルス感染症とは?

2019年12月より中国で 新型コロナウイルス ( COVID-19 )による肺炎が発生し、2020年4月現在では日本国内でも急速に感染が拡大しています。

新型コロナウイルスは、感染症法における「 指定感染症 」、及び検疫法における「 検疫感染症 」に指定され、感染が確認された患者に対して入院措置などの法的処置を取ることが可能となりました。

今回は、まず感染の拡大等を予測できる感染症モデルについていくつか紹介していこうと思います。また、感染症拡大の指標である基本再生産数・実効再生産数についても、実際のコロナウイルスのデータを用いてみていきます。


感染症モデルと基本再生産数・実効再生産数

これまで私たちは、新型コロナウイルスをはじめとする様々な危機にさらされてきました。それを機に感染症の流行を抑えるべく、感染者の隔離による感染個体との接触回避や、ワクチン接種による免疫力の向上など様々な対策を講じてきました。一方、感染症の流行のメカニズムを定式化することにより得られる、感染症の数理モデルによる感染症の流行規模の予測も注目されています。

感染症の数理モデルとは、簡単に言うと「感染症がどのように伝播し、感染した人がどの程度の期間で発症し、どの程度の期間で回復するのか」といったプロセスを、数式によって記述したものです。

感染症モデルにも、そのプロセスをどのように仮定するかにより様々なものが存在します。今回はその中のいくつかを紹介していきます。


SIR model

SIRモデルは、感染症モデルの中で基本となるモデルで、原形はKermack-McKendrick(1927)によるモデルです。

 このモデルは、対象とする全人口を

  • 感受性保持者(Susceptible):感染症への免疫がなく、これから感染する可能性がある人
  • 感染者(Infectios):感染症に現在感染している人
  • 免疫保持者(Recovered):感染症から回復して免疫を持った人もしくは死亡した人


の3つの状態に分かれると仮定し、集団に感染症が広がる様子を表したモデルで、時間経過によるそれぞれの状態の個体数の増減を考えています。

ここでは感染症にかかった少数の人が、感染症にかかる可能性のある大きな集団と接触した場合を想定しています。

SIR.png

SIRモデルは以下の微分方程式により定式化されます。

スクリーンショット 2020-04-30 9.30.08.png

ここでS(t)、I(t)、R(t)はそれぞれ時刻tでの感受性保持者数、感染者数、免疫保持者数を表していて、微分方程式のそれぞれの式は微小時間での個体数の増減を数式化したものです。感受性保持者から感染者となる推移は両者が接触することを想定していることから、感受性保持者の減少及び感染者数の増加を表す式は、感受性保持者数と感染者数の積を用いて表現されています。

また、βは感染伝達係数、つまり感染率を意味するパラメータで、この値が大きいほど人から人へと感染しやすいこと表しています。

γは回復などで感染者でなくなる割合を表していて、感染症が治りやすければこの値も大きくなります。 ここで感染症が流行するというのは、モデル中のI(t)が増加することで、その条件は上のI'(t)の式から求めることができます。 初期値をI(0)、S(0)として、

sir2.png

が正のとき、つまり
スクリーンショット 2020-04-30 9.50.45.png

のとき、I(t)は初期時刻からの微小時間では単調増加で、ある時刻で最大値を取ります。最大値に到達した後は単調減少で0に収束していきます。 この値は基本再生産数と呼ばれます。ここで、基本再生産数について実効再生産数とともに簡単に説明したいと思います。


基本再生産数と実効再生産数

 基本再生産数とは、1人の感染者が感染力を失うまでに平均して何人の感受性保持者に直接感染させるのかという人数で、どの程度感染を広げる可能性があるかを示しています。 これは、

基本再生産数 =(単位時間あたりの2次感染者数) ×(平均感染期間)
       = 1次感染者が感染期間中に生み出す2次感染者数 と表すことができます。 またSIRモデルの式から、基本再生産数は
R0.png
と表せます。

この値が
スクリーンショット 2020-04-30 9.44.44.png
のとき感染症の流行が発生します。

基本再生産数を計算する一例を紹介します。

r0_cal-1.png

この図は、赤い丸が一人の感染者を表しています。一番左の時点を第1世代とし、その感染者が新たな感染者(第2世代)を生み出すとし、ここでは第6世代まで広がるとしています。一人の感染者が生み出す新たな感染者数は異なり、これが多いほど感染力の高い感染症であるとも考えられます。 ここで基本再生産数は

(全世代の新規感染者数)÷(世代数) で求めることができます。

ここで注意しなければならないのは、一般に基本再生産数の値は、一切対策を取らなかったときに感染症がどの程度感染を広げていく可能性があるのかを示すということです。

実効再生産数とは、感受性固体の一部が免疫化された集団の再生産数のことで、簡単に言うと、感染拡大しないように対策を取ったときの実際の再生産数のことです。感染症の流行を抑えるために、拡大防止対策を講じ、理論的には実効再生産数の値が1を下回れば感染の流行を収束に向かわせることができます。収束に向かわせるといっても、その期間の新たな感染者数が減少するということで、感染症が収まってなくなるというわけではありません。感染症の最終的な収束には、実効再生産数が大きくなりすぎないように対策を講じながら、集団免疫を獲得するかワクチン等の開発を待つ必要があるそうです。

基本再生産数の取る値により感染者数の増減はどのように異なるのでしょうか。

まず、基本的なSIRモデルの挙動は以下のようになります。

sir_g.png

ここで注目するのは基本再生産数の値を40(β=0.2)のときと、4(β=0.02)のときの感染者数I(t)の推移を見てみます。

またγ=0.05、S(0)=10、I(0)=10とします。

I_beta.png

このグラフから、基本再生産数の値が大きくなると感染症の広がりが速くなり、そのピーク時の感染者数の最大値も大きくってしまうことが分かります。つまり、何も対策を取らなければ、感染症は急激に広がり、同時期に多くの感染者が発生してしまうのです。

次にSIRモデルから派生したSEIRモデルについて紹介します。


SEIRモデル

SEIRモデルとは、SIRモデルの3つの状態に加えて、潜伏期感染者(Exposed)を考えたモデルです。

つまり、対象とする全人口を

  • 感受性保持者(Susceptible):感染症への免疫がなく、これから感染する可能性がある人
  • 潜伏期感染者(Exposed):感染症に感染したが潜伏期間で、感染力がない人
  • 感染者(Infectios):感染症に現在感染している人で、感染力がある人
  • 免疫保持者(Recovered):感染症から回復して免疫を持った人もしくは死亡した人


の4つの状態に分かれると仮定し、集団に感染症が広がる様子を表したモデルで、時間経過によるそれぞれの状態の個体数の増減を考えています。 今回のコロナウイルスを簡単に見るときにはSEIRモデルがよく使われているような印象です。

SEIR.png

SEIRモデルは以下の微分方程式により定式化されます。

SEIR_equ.png

ここでS(t)、E(t)、I(t)、R(t)はそれぞれ時刻tでの感受性保持者数、潜伏期感染者数、感染者数、免疫保持者数を表していて、微分方程式のそれぞれの式は微小時間での個体数の増減を数式化したものです。ここでSIRモデルで無かったパラメータσは潜伏期間から感染状態へ移行することを表す係数で、単位時間あたりの発症率を表します。

SEIRモデルの挙動は以下のようになります。

SIR_graph.png

次にSISモデルについて説明します。


SISモデル

SISモデルは、感受性保持者(Susceptible)と感染者(Infected)の2つの状態のみを考えます。感受性保持者から感染者へ移行するのはSIRモデルと同じですが、SISモデルでは感染してから回復した後に免疫を獲得せずに、再び感受性保持者になり、感染の可能性がある状態へと移行すると考えています。

SIS.png

SISモデルは以下の微分方程式により定式化されます。

SIS_equ-1.png

ここでS(t)、I(t)はそれぞれ時刻tでの感受性保持者数、感染者数を表していて、微分方程式のそれぞれの式は微小時間での個体数の増減を数式化したものです。また、ここで出てくる係数はSIRモデルと同じです。SIRモデルと比べると、感受性保持者から感染者へと移行する様子が良く分かると思います。

SISモデルの挙動は以下のようになります。

SIS_graph.png

グラフを見て分かるように、ある程度まで感染者が増えると、感受性保持者と感染者の数が一定になります。つまり一定になってからは、感受性保持者と感染者の状態を一定数が行き来しているということになります。

これらの感染症モデルを見ていると、感染症による状態の遷移をどのように仮定するかでモデルが決まることが分かると思います。これら以外でも、違う仮定をすることで感染症モデルは提案がされていますし、感染症ごとにモデルを検討されることもあると思います。

感染症モデルを用いることで、感染症が出てきた段階では、どの程度広がっていくのかスピード等も考慮しながら予測することができ、対策を講じる際に利用することができます。また、対策を講じた後もどの程度効果があったかや、その先対策を講じながらの感染者の推移について予測する際にも用いることができます。

また実際に感染がどの程度抑えられているかは、実効再生産数を算出することで確認できます。


コロナウイルスデータの実効再生産数の推移

実際のコロナウイルスの感染者数データから、実効再生産数の推移を見ていこうと思います。実効再生産数については上で紹介しましたが、計算法についてはいくつかあるようで、今回はCoriらの論文にあるエクセルシートを使いました。データについてはsignateのCOVID-19 Challengeで与えられている都道府県ごとの感染者数データを使っています。本来、実効再生産数を計算する際には検査数等も考慮する必要があると思いますし、実際に専門の方が計算するのとは差があり、あまり正確な値ではないので、参考程度に考えてください。

ここで推移を見るのは、北海道・東京・大阪・愛知としました。愛知県のみ、5月14日で緊急事態宣言が解除されています。(5月19日時点)

hokkaido.png

tokyo.png

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aichi.png

グラフを見るポイントは、実効再生産数が1未満に抑えることができているかということです。それぞれ見ると5月19日時点で、すべて実効再生産数1を下回っているので、感染の広がりをうまく抑えられているように思います。

推移の中で、実効再生産数が1を下回り安定し始めたの日は、北海道が5月5日ごろ、東京・大阪が4月21日ごろ、愛知が4月15日ごろとなっています。一足先に緊急事態宣言が解除された愛知が、少しですが他よりも早く実効再生産数が下がった印象です。また東京・大阪にくらべて、北海道は実効再生産数が1未満に下がるのが遅い印象なので、緊急事態宣言の解除等に影響してくるかもしれません。

あくまでも参考値であるものの、今回見た地域では実効再生産数が5月19日時点で1を下回って少し落ち着ているので、少しずつ自粛緩和 は進んでくるとは思います。ただしグラフを見て分かるように、少し前の時期には実効再生産数が1を大きく上回っています。また、今の状況というのは強めに自粛を呼び掛けての結果ですので、実際に少し前の時期には実効再生産数が1を上回っていた事実をデータから受け止め、簡単にその状態に戻ってしまうことを肝に銘じておく必要があると思います。


まとめ

今回はコロナウイルスの流行により注目されている感染症モデル等について紹介しました。日々状況が更新される中で、実効再生産数等はこれからも対策をとる一つの指標となるので、正しく理解することが大切です。


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世界で猛威を振るうコロナウイルスの抑制に向けて、AI・機械学習はどのような貢献ができるでしょうか。

政府、研究者、保健機関を支援するための早期警告、および検出アルゴリズム、患者の旅行履歴に基づく分析、そして最終的にはコロナウイルスワクチンの作成および開発まで、AIはおそらく鍵となるテクノロジーになるでしょう。今回はAI・機械学習での貢献にチャレンジしている事例を紹介します。


機械学習によるウイルスの検出と追跡

たとえば、カナダに本拠を置く病気の分散予測プラットフォームBlueDotが実際にコロナウイルスの発生を特定したのは、米国疾病対策センターからの公式警告があった5日前の 2019年12月31日でした。BlueDotのアルゴリズムは、自然言語処理と機械学習を使用して、65か国語のニュースレポートを、航空会社のフライトデータと動物の病気の発生レポートとともに分析します。システムはこれらのレポートをふるいにかけることにより、感染した住民がどこに、いつ移動する可能性が高いかを特定し、ウイルスが武漢からバンコク、ソウル、台北、東京に広がるのではないかと予測しました。

機械学習は、コロナウイルス曝露の可能性について旅行者をスクリーニングするためにも利用されています。
マレーシアの電子サービス会社MY EG Services Berhadは、中国の旅行会社であるPhoenix Travel Worldwideとともに、入国しようとしている中国観光客ががコロナウイルスに曝された可能性があるか、またはその危険性があるかどうか判断するため、AIがリスクを分析するソリューションを展開しています。このソリューションの機械学習アルゴリズムは、いくつかのデータポイント(以前いた場所、心拍数、血圧など)を利用して分析・予測をしています。


治療計画の作成

ウイルスの追跡以外にも、AIはワクチンの開発や治療に利用されています。
Insilico Medicineは、香港に本拠を置くAIを活用した創薬会社で、コロナウイルスと戦うことができる可能性がある分子化合物を無料公開しています。このテクノロジーは機械学習を使用して特定の分子の特性とそれらがウイルスと相互作用する方法を分析しています。結果に対して薬学者からのフィードバックを求め、ワクチン開発機関の短縮に貢献することを目指しています。


おわりに

貢献の成果が出るのはこれからかと思いますが、複数のソリューションがスピード感を持って開発されています。中国で話題になった「マスクマップ」に続くソリューションが今後も生み出されていくでしょう。

KaggleやSIGNATEでもコロナウイルス分析へのコンペが開催されています。当社インターンでも結果を公開できるように進めています。


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0. 背景

特徴量の自動抽出 」を行うのがDeep Learningの強みの1つですが、与えられたデータに対する推論の過程が ブラックボックス化 され、なぜその特徴量を抽出したのか説明できないという問題点もあります。

例えば、自動運転技術が搭載されている車で事故が起こった場合、「 なぜ事故が起こったのか 」という原因の究明が難しく、実用化にあたり大きなハードルになっています。

最近の機械学習関連の学会では「 Explainability (説明可能性)」についての話題が増えています。この説明可能性については大きく2つ、「 法的な側面 」と「 技術的な側面 」があります。


法的な側面

先の自動運転の例で言うと、起きた事故について「 誰に責任の所在があるのか 」という問題が発生します。「AIを作った人間」に責任があるのか、それとも「AI本体」にあるのか説明出来なければなりません。 外部的な要請として「 AI利活用原則案・AI開発ガイドライン案 」などがあり、他にも「機械学習における公平性・説明責任・透明性」ワークショップFAT/MLが2014年から毎年開催され、国際的な議論もなされています。


技術的な側面

再び自動運転の例を挙げると、事故が起こる直前に、なぜその判断を下したのか「 判断の根拠 」をユーザーに分かりやすく提示しなければなりません。 技術的な面については米国のDARPAが XAI(Explainable AI) 研究開発投資プログラムを開始しており、機械学習に解釈性を持たせつつ精度を上げることを目的としています。


1.Explainable AI(XAI)のアプローチ

A Survey Of MethodsFor Explaining Black Box Modelの論文によると、XAIのアプローチは次の4つに分類できます。

  • Black Box Explanation(解釈可能モデルの抽出) : AIをブラックボックスとして同等の解釈可能なモデルの生成
  • Model Output Explanation(出力に対する説明の生成) : AIの出力に対し、予測の根拠を説明
  • Model Inspection(ブラックボックスの中身の検査) : ブラックボックスの中身の説明
  • Transparent Box Design(透明性のある学習器の設計) : AIの学習過程や構造を人間が解釈しやすくモデル化


それぞれのアプローチの概要を図示すると以下のようになります。

XAI_1.png

Explainable Artificial Intelligence (XAI): Concepts, Taxonomies,Opportunities and Challenges toward Responsible AIより引用

ではそれぞれのアプローチにおける代表的な技術を紹介します。


Black Box Model Explanation(解釈可能モデルの抽出)

代表的な例としてTrepan、G-Rexがあります。

Trepan
ニューラルネットワークbからからこれと等価な決定木を抽出します。具体的にはbに対して人工的なデータを流し、bの出力を得ながら決定木を構築します。

G-Rex
ニューラルネットワークbに対して、学習データである入力と出力の組み合わせからルールを出力します。学習データに少し摂動を加えたデータに対する出力もルールに組み込むことにより、学習データ以外の入力に対するbの振舞いも抽出できます。

Model Output Explanation(出力に対する説明の生成)

最も盛んに研究が進められているアプローチで、代表的な例としてLIME、Grad-CAM、SHAPがあります。

LIME(Local Interpretable Model-Agnostic Explanations)
データ一つに対する機械学習モデルの分類器による予測結果に対して、どの特徴に注目して分類が行われたかの説明をします。例えば、猫の画像認識を行うブラックボックスモデルにおいて、正しく判定されたデータに対して、入力データの特徴に該当する部分を少しずつ変更して結果を比較することで、どの特徴が判定に寄与したかを明らかにします。

Grad-CAM
まずCNNにおいて、入力データの画素の位置情報を最終畳み込み層まで保持させます。そして最後の判別出力への位置情報の影響度を得ることで、元画像上にホットスポット(影響の強い部分)を表示します。

SHAP
結果に対する特徴の貢献度を定量化します。これにより、ある特徴変数の値の増減が与える影響を可視化することが出来ます。例えば、口座が引き落とし不能になる確率を70%としたとき、"年齢=20歳"が25%、"職業=フリーター"が40%、"既婚"であることは-20%などのように、属性値ごとに予測値への数値としての寄与度に分解します。

Model Inspection(ブラックボックスの中身の検査)

代表的な例としてVEC、Prospectorがあります。

VEC
ブラックボックスの中身を見て、出力に対し入力がどのように影響を与えるかを、グラフを用いて可視化します。

Prospector
インタラクティブに入力を変えると、出力がどのように変わるかを示すアプリケーションをユーザーに提供します。

Transparent Box Design(透明性のある学習器の設計)

代表的な例としてFRLがあります。

FRL(Falling Rule Lists)
そもそも説明性のあるルールによる分類や診断技術に対して、各々のルールに正しさの確率を付与したり、ルールに優先順位を付けることにより、透明性がありかつ性能の高い学習器を設計します。


2.総論

ディープラーニングを使う機械学習では、「 特徴抽出の自動化 」により与えられたデータに対する推論の過程が「 見えない 」という問題があります。

ディープラーニングを用いた製品やサービスで事故や判断ミスなど重大な問題を引き起こした場合、原因の究明、改善が要請されます。その際に先述したようなブラックボックス化されているモデルの「説明可能性」に関する話題が増えています。

しかし、XAIには対象や目的に応じて上記のような様々なアプローチがあるので、個別企業だけでは研究開発をカバーしきれないという問題もあります。各国は、XAIを協調領域として国家プロジェクトとしても取り組んでいます。前出のDARPAのXAIのプロジェクトの他にも、国内ではNEDOの「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」(人工知能の信頼性に関する技術開発)があり、2019年度は「説明できるAI」に関する7件が採択されました。

このような取り組みを皮切りに、私達もAIに関する問題を解決していきたいと考えています。


参考文献

AI白書2020
AI利活用原則案(総務省)
AI開発ガイドライン案(総務省)


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最近、「機械学習って何が出来るの?」「AIとなにが違うの?」という質問を多くいただくようになってきました。それもそのはず、5年間で機械学習の検索ボリュームは約3倍になりました。


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機械学習の概要やどんな課題解決ができるのか、事例をご紹介します。


目次

  1. 人工知能(AI)とは
  2. 機械学習とは
  3. 機械学習の種類
  4. 機械学習の歴史
  5. 解決したい課題別 機械学習の活用事例
    コスト削減/人依存の解消/生産性向上/品質向上
  6. 導入検討フロー


人工知能(AI)とは

人工知能のイメージは人によって大きく違います。人工知能が「推論・認識・判断など、人間と同じ知的な処理能力を持つ機械(情報処理システム)」であることは大多数の研究者たちの意見も一致していますが、それより細かい定義については専門家たちの間で共有されている定義はありません。「人間と同じ知的な処理能力」の解釈がそれぞれ異なるからです。

専門家の定義が定まらないため、一般のイメージはなおさら曖昧です。イメージしやすいものは、お掃除ロボットや自動運転のようにシステムが自ら考えて行動しているように見える、周りの環境に応じて自らの行動を変えられるものでしょう。

なにができるか、といった視点から人工知能を分類し、解説します。


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1.ルールベースでの制御

エアコンの温度調整など、予め行動が決まっている製品が当てはまります。制御工学やシステム工学と呼ばれ、人工知能には当てはまりません。

2.古典的な人工知能

掃除ロボットや診断プログラムなど、探索・推論・知識データを活用し、状況に応じて振る舞いを変える製品です。既に広く実用化されており、機械学習・深層学習の研究の先駆けです。

3.機械学習

検索エンジンや交通渋滞予測など、大量のサンプルデータを元に入力と出力の関係を学習した製品です。古くから研究され、2000年代に入り、ますます発展しています。

4.深層学習(ディープラーニング)

機械学習では、学習対象の「どのような特徴が学習に影響するか(特徴量)」を見極めることは非常に重要で難しいです。例えば、売上予測をする際にその日の天気が重要、と分かっていると効率的に学習が進められます。 この特徴量を自動で学習するシステムが深層学習です。画像認識、音声認識、自動翻訳など、従来のコンピュータで実現が難しいとされてきた分野での応用が進んでいます。


機械学習とは

機械学習とは、コンピュータにデータを与え、アルゴリズムに基づいた分析をさせる手法のことです。事例となるデータを反復的に学ばせて、特徴やパターンを見つけ出します。見つけた特徴を新しいデータに適用することで分析や予測を行います。 解きたい課題によってそのアプローチは様々です。機械学習にも得意不得意があり、どのような課題であれば機械学習で解決できるのかを知っておくことが重要です。

機械学習が対象とする課題の種類は次の3つにまとめられます。

教師あり学習

与えられたデータを元にそのデータがどんなパターンになるか予測・識別するものです。例えば

  • 過去の受注データから未来の受注を予測したい
  • 写真がどの動物か識別したい
  • 英語の文章を日本語に翻訳したい


といった活用ができます。つまり、与えられたデータ(入力)と返す答え(出力)にどんな関係があるかを学習する手法です。
また、受注予測のように連続したデータの予測は回帰、写真の識別のようにカテゴリを予測するものは分類といいます。

教師なし学習

教師あり学習では、入力データと出力データが対になっていましたが、教師なし学習は出力データがありません。教師=出力データですね。例えば

  • 顧客層がどのようなものか知りたい
  • 膨大なデータの項目間の関係性を知りたい


このようにデータに意味をもたせたい時に活用されます。

強化学習

強化学習は教師あり・なし学習とは少し異なり、「行動を学習する仕組み」とよく表現されています。ある環境下で、目的とする報酬を最大化するための行動はなにか、を学習していきます。例えば

  • パックマンの行動最適化
  • プロ囲碁棋士を破ったコンピュータ囲碁(Aipha Go)


が挙げられます。学習内容の表現が教師あり学習より難しいため、ビジネス活用は上の2つよりは遅れています。

機械学習の歴史

機械学習の歴史は深く、始めて人工知能という言葉が使われたのが1956年のダートマス会議においてでした。世界初の汎用電子式コンピュータが開発されたちょうど10年後です。

人工知能はブームと冬の時代を何度も繰り返しています。

第1次AIブーム(1950年代後半〜1960年代)

コンピュータによる推論・探索の研究が進み、特定の問題に対して解を導けるようになったことが始まりです。東西冷戦中のアメリカでは英語ーロシア語の機械翻訳が注目されました。 しかし、数学の証明のような簡単な問題は解けても、現実の複雑な問題は解けないことが明らかになり、1970年代には冬の時代に入りました。

第2次AIブーム(1980年代)

コンピュータに知識を入れると賢くなるというアプローチが全盛となり、データベースに大量の専門知識を入れたエキスパートシステムが多数登場しました。しかし、その知識を管理・蓄積させることの大変さから1995年頃にまた冬の時代に突入しました。

第3次AIブーム(2010年〜)

ビッグデータを用いることで、人工知能が自ら知識を獲得する機械学習が実用化されました。また、特徴量(学習の際に注目すべき特徴を定量的に表したもの)を自ら発見して学習する深層学習(ディープラーニング)が登場したこともブームの背景です。

3つのブームは関係しあっています。
例えば、1990年にインターネット上にWebページが出現し、データが蓄積されるようになったことで、データ活用が進み、機械学習が発展しました。その機械学習も急に出現したわけではなく、第1次ブームや第2次ブームの時も機械学習は研究されています。

解決したい課題別 機械学習の活用事例

ここからは具体的に機械学習で解決できることを紹介していきます。よく聞く課題をピックアップしています。
(タイトルのリンククリックで事例ページに遷移します。)

コスト削減

点検作業の自動化
カメラで撮影した建物画像からひび割れ等の老朽化箇所を検出します。人からシステムに役割を変えることができ、人件費削減だけではなくかかる時間も短縮することができています。

倉庫内配置の最適化
倉庫内にカメラを配置し、撮影することで作業社の行動や物の位置を把握し分析します。倉庫内の動線や配置の最適化によって業務を効率化し、コスト削減を実現します。

特定箇所への農薬散布
企業が農業へ参入したことで、日本では集約農業から大規模農業へと転換が進んでいます。広大な農地で作物を育成する際に、ドローン等で空撮したデータから必要な箇所を割り出して、病害虫が発生している箇所ピンポイントに農薬を散布します。農薬使用量を削減できるだけでなく、他作物へのダメージを減らすことができます。

無人レジ
人がレジ打ちをする作業をなくしシステムが自動計算します。パンやドーナツ、ケーキなどラベルが付いていないものへのアプローチとして有効です。

人依存の解消

受注量予測
過去の受注量のメカニズムからどれだけの発注があるか予測します。ベテランにしかできなかった発注業務の敷居を下げることで、限られた人しかできなかった業務を分配することができます。

野菜収穫の自動化
ノウハウが重要な収穫時の見極めをAIがおこないます。AIが判断した後にロボットに信号を送ると自動で収穫をおこなうマシンも検討できます。

生産性向上

問合せへの自動応答
社内からの問合せ件数は日にかなりものです。その問合せをチャットボットで自動応答にすることができます。質問者も作文に時間をかけずに気軽に質問することができます。

居眠り検知
同じ作業が続く検品等で、うとうとしそうになってしまうことがあります。目の開きがあまくなるとアラートが鳴り、目を覚ましてくれるシステムも構築できます。

品質向上

高解像度画像の作成
最新のAI技術では荒く見づらい画像を高解像度に直すことができます。品質で失注していた案件に、より良い提案が出来る可能性が上がります。

コンベア内の品質チェック
コンベアを流れる物体が良品か不良品かを判定します。不良品可能性のある物は人が見るまでもなく振り分けることで、人の疲労による見落としを減らすことができます。

口コミ分析
集まった口コミを分析し、改善点を明確にします。その口コミが「ポジティブかネガティブか」を分類し、ネガティブな口コミの原因抽出をします。

導入検討フロー

導入検討が成功した事例はまだまだ公開数が少なく、何から手を付けてよいか...。と相談を受けることもあります。(もちろん例外も多々ありますが)一般的な機械学習導入検討フローを紹介します。


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1.企画

機械学習は手段であり、活用が目的ではありません。「解決すべき課題はなにか」を深堀りし、実現したい世界を明確にすることが大切です。手段として機械学習が適切かどうか、費用対効果の試算も必要です。 また、機械学習活用にはデータが必要です。必要なデータが揃っているのか、収集できるのか、どれほど欠損があるのか(すぐに機械学習に使えるキレイなデータはほとんどありません。)の確認もこの段階で重要です。

2.検証(PoC)

企画した計画の実現可能性を確かめる段階です。 機械学習アルゴリズムの選定→データの前処理(整形)→機械学習モデルの選定・構築→評価 のプロセスを実行し、求める結果に達する可能性と工数を確かめます。 求めたい精度に達するまで、別のアルゴリズムを試したり、モデルを変更したりとチューニングします。 機械学習は魔法ではありません。特性上、試してみないとどのくらいの精度が出せるか分かりません。そのため、まずは小さく試して実現可能性を確認することが必要です。

3.本開発

検証段階で実現性が確認できたモデルを実運用に向けて拡大していきます。 検証段階では限られた条件のため、作成したモデルをそのまま横展開しても思うような結果(精度)が出ないことも多々あります。その場合は、検証段階のモデルやノウハウを活用しつつも、モデルを再チューニングします。 また、目的に立ち返り、「本当に必要な精度」を再検討することで、チューニングにかかるコストを削減することもできます。

4.運用

いよいよ業務で活用します。機械学習を業務に取り入れると、業務フローが少なからず変わります。現場で使われるシステムにするために業務フローを再設計することが必要です。

機械学習はこれからビシネス活用が進んでいくフェーズです。そのため経験豊富なベンダーと二人三脚の検討が成功のコツでしょう。

アクセルユニバースの紹介

私達はビジョンに『社会生活を豊かにさせるサービスを提供する。』ことを掲げ、このビジョンを通して世界を笑顔にしようと機械学習・深層学習を提案しています。

  • ミッション(存在意義)
    私達は、情報通信技術を使って万物(全ての社会、生物)の暮らしをよりよくすることに貢献し、 それを加速させることを使命とします。

  • ビジョン(目標とする姿)
    社会生活を豊かにさせるサービスを提供する。

  • バリュー(行動規範)

    1. 変化を求め、変化を好み、変化する
    2. 自分の高みを目指してどんどん挑戦する
    3. お客様と一蓮托生でプロジェクトを進める


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