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技術ブログ
海洋エネルギー × 機械学習〜普及に向けた課題と解決策〜
目次
- 海洋エネルギーとは?
- 海洋エネルギー発電の普及に向けた課題とその解決策
- 機械学習を用いた海洋エネルギー発電の課題への解決策
- これから私が取り組むこと
- 参考文献
1. 海洋エネルギーとは?
海洋再生可能エネルギー(略して、海洋エネルギー)とは、洋上風力(図1)、波力(図2、3)、海流(図4)、潮流(図5)、潮汐、海洋温度差、塩分濃度差といった再生可能エネルギーを指す。地球表面の約70%は海で覆われているため、海洋エネルギーは非常に膨大で、決して枯渇することはないエネルギーである。我が国の200海里経済水域の面積は世界第6位であり、国民一人当たりの海域面積は主要先進国では最も大きい。このことからして、我が国が強力に開発すべき再生可能エネルギーは、海洋エネルギーである。
そもそも再生可能エネルギーとは、地球温暖化の原因である温室効果ガスを排出せず、環境にやさしく、枯渇する心配がないエネルギーのことである。地球温暖化が進行すると、
- 高潮や沿岸部の洪水、海面上昇による被害
- 大都市部への内水氾濫による被害
- 極端な気象現象によるインフラ機能停止
- 熱波による死亡や疾病
- 気温上昇や干ばつによる食料不足や食料安全保障の欠如
- 水資源不足と農業生産減少
- 陸域や淡水の生態系、生物多様性がもたらす様々なサービスの損失
- 海域の生態系、生物多様性への影響
上記のような多くの問題が生じる。
化石燃料(石油、天然ガス、石炭)による発電は、温室効果ガス(二酸化炭素など)を排出し、地球温暖化を進める発電方法である。また、資源に乏しい我が国は、エネルギー供給のうち、化石燃料が8割以上を占めており、そのほとんどを海外からの輸入に頼っている。特に東日本大震災後、エネルギー自給率は10%を下回っており、エネルギー安定供給の観点から、この改善を図っていく必要がある。
再生可能エネルギーは国産のエネルギー源であるため、エネルギー自給率の改善にも寄与することができる。更に、東日本大震災による原発事故を受け、原子力発電所が東日本大震災並の地震に耐え得るには、設計の見直しが必要であり、今後安全対策費が高くなることが予想されるため、発電コストは今後も高くなる。また、放射性廃棄物の処理についてもまだ未解決の問題である。このことから再生可能エネルギーは今非常に注目を集めている。
では、その再生可能エネルギー発電と言えば、太陽光発電や風力発電が現在主流であるが、これらに対抗できるほどのメリットが海洋エネルギー発電にあるのかと疑問を抱く方は多いかもしれない。太陽光発電は、夜間や雨・曇りの日などには発電できない。即ち、設備利用率(発電設備の実際の発電量が仮にフル稼働していた際の発電量の何パーセントほどであるのかを示す数値)が低い。それに対し、海洋エネルギー発電は、夜間でも、天候が多少悪くても稼働できるため、設備利用率は太陽光発電に比べて高い。
また陸上の風力発電は土地や道路の制約があり、特に国土が狭く地形も複雑な日本では、風の条件が良い場所はどうしても限られ、景観や騒音の問題によって大型化できないのに対し、同じ風力でも洋上風力発電ではその心配はない。表1は再生可能エネルギーの設備利用率の比較である。海洋エネルギー発電には他の再生可能エネルギーより優れた点がある。
2. 海洋エネルギー発電の普及に向けた課題とその解決策
現在、海洋エネルギー発電は、まだ世界的にも研究開発もしくは実証研究の段階にあり、本格的な事業化に向けて、以下の課題を克服しなければならない。
まず、機械学習を活用しない解決策を課題毎に述べる。
<課題①「電力需要量とのバランスが取りにくい」>
- 蓄電装置や電力の水素への転換などの蓄電方法の開発・改良を行う。
<課題②「発電効率が火力発電や原子力発電などに比べて低い」、課題⑥「発電コストが高い」>
- 単機では発電効率が低く発電コストは高いが、数を増やすことで発電効率を向上させ、発電コストも下げる。(再生可能エネルギーは数が増えることで発電コストが急減する)
<課題⑤「他の再生可能エネルギーと比べて実績が足りない」>
- 水槽試験だけでなく長期的な実海域試験を単機だけでなく複数機で行う。
- EMEC(欧州海洋エネルギーセンター)のような海洋エネルギーの実海域試験を行う研究所を我が国にも造る。
<課題⑦「試験運転であっても国や地方自治体への計画・建設の許可が必要」>
- 技術的課題、経済的課題、環境的課題をできる限り解決し、国や地方自治体の認可をもらえるようにする。
<課題⑧「航行や漁業などの海域利用者や地域の方々の理解が必要」>
- 海域利用者と十分に協議し、周辺住民への情報の開示する。
- 地域の活性化に繋がることを周辺住民へ伝える。
- 発電機周辺には魚が集まってくるなど、漁業にもメリットがあることを伝える。
<課題⑨「辺環境や生物生態系への懸念」>
- 実海域試験を行い、周辺環境や生物生態系への影響を調査し評価する。
3. 機械学習を用いた海洋エネルギー発電の課題への解決策
海洋エネルギーの技術的課題を解決するためには当然、発電装置や蓄電装置、海底ケーブルなどの開発・改良を行う必要があるが、ここでは、太陽光発電や陸上風力発電で取り組まれている解決策を参考に私が考えた、機械学習(人工知能)を用いた解決策を紹介する。
<課題①「電力需要量とのバランスが取りにくい」、課題③「無駄な待機運転の時間がある」への解決策>
発電装置周辺の気象・海象データを説明変数として発電量を予測し、カレンダー条件(時間帯、曜日など)と気温や日射強度などの気象条件を説明変数として電力需要量を予測することで、需要と供給の差が確認できる。そして電力需要量の送電にかかる時間分先の予測値と同量を発電するように発電装置を制御すれば、需要と供給のバランスを保ちながら発電することができる。発電機の無駄な待機時間も削減され、設備稼働率も向上する。
<課題②「発電効率が火力発電や原子力発電などに比べて低い」への解決策>
また、これは私のアイデアではないが、波力発電装置の発電量の平均値が最大になるように機械学習(強化学習)を用いて制御するといった研究も行われている。
<課題③「無駄な待機運転の時間がある」、課題④「台風など局所的に厳しい海象条件下での安全性の懸念」への解決策>
<課題③「長いメンテナンスにより稼働時間が減る」、課題⑥「海上工事や潜水作業のコストが高い」への解決策>
<課題④「台風など局所的に厳しい海象条件下での安全性の懸念」への解決策>
異常を確認すると稼働停止するようにしておくことで、安全性が向上する。
4. これから私が取り組むこと
私は何としてでも、海洋エネルギーを我が国で普及させたいと考えている。そのために今回海洋エネルギー発電の課題について取り上げてきた。そして3章で示したように、海洋エネルギーを普及させる方法の一つとして機械学習を用いる方法があり、私はこれに非常に興味を持ち、可能性を感じている。
今後は、「機械学習を用いた海洋エネルギー発電の効率向上と制御」、「機械学習を用いた発電装置などの運動する海洋構造物の安全性確保と評価」をテーマに研究を行っていく。具体的には3章で紹介した「機械学習を用いた制御」や「異常検知」について着目しようと考えている。また安全性の評価として機械学習を用いることができないかなど、海洋エネルギーに対する機械学習の新たな用途の探求も行っていく。
このような私の研究によって、海洋エネルギー発電の課題が一つずつ解決して行き、海洋エネルギー発電が事業化することで、我が国だけでなく世界中のエネルギー問題が解決することを私は期待している。しかし、この研究を進めるためには海洋エネルギーに関するデータが必要であることは言うまでもない。
5. 参考文献
- 近藤俶郎『海洋エネルギー利用技術(第2版)ー発電のしくみとその事例ー』森北出版株式会社, 2015
- WWFジャパン「地球温暖化が進むとどうなる?その影響は?」(最終閲覧日2019年12月9日)
- 経済産業省資源エネルギー庁「再生可能エネルギーとは」(最終閲覧日2019年12月9日)
- 経済産業省資源エネルギー庁「原発のコストを考える」(最終閲覧日2019年12月9日)
- 財団法人電力中央研究所「海洋エネルギー利用発電技術の現状と課題」, 2010(最終閲覧日2019年12月9日)
- NEDO「NEDO再生可能エネルギー技術白書 第2版 再生可能エネルギー普及拡大にむけて克服すべき課題と処方箋 第6章 海洋エネルギー」, 2014(最終閲覧日2019年12月9日)
- 経済産業省資源エネルギー庁「電気の安定供給のキーワード「電力需給バランス」とは?ゲームで体験してみよう」(最終閲覧日2019年12月9日)
- AI-SCHOLAR「風力発電の効率が、AIの力で最大化する!?」(最終閲覧日2019年12月9日)
- 進博正、志賀慶明、市川量一「気象予測データと機械学習を用いた高精度な電力需要予測手法」, 2019(最終閲覧日2019年12月9日)
- 藤田均『海洋へのいざない』公益財団法人 日本船舶海洋工学会, 2017
- 梅田隼「波力発電装置の最適制御への深層強化学習の適用」, 2019(最終閲覧日2019年12月9日)
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