DEVELOPER’s BLOG

技術ブログ

SREの費用は高いのか?──コストの見える化と"投資対効果"の考え方

2025.06.19 髙橋 由子
SRE コラム
SREの費用は高いのか?──コストの見える化と


  1. はじめに
  2. SREにかかる費用の内訳
  3. なぜ「高い」と感じるのか?
  4. "投資対効果"の視点で見るSRE
  5. コストを最小化しながら始めるには?
  6. まとめ:SREは「高い」ではなく「将来を守る投資」


1.はじめに

SRE(Site Reliability Engineering)を導入したい──そう考える企業が増える一方で、「費用が高すぎるのでは?」と導入に躊躇する声も聞かれます。しかし、SREにかかるコストは単なる"費用"ではなく、"将来的な損失を防ぐための投資"と捉えるべきです。本記事では、SRE導入にかかる具体的なコストと、それによって得られる効果や回収の視点を整理します。


2.SREにかかる費用の内訳

SRE導入には、以下のようなコストが発生します。

・人件費
SREエンジニアは、開発と運用の両スキルを備える必要があり、一般的なインフラエンジニアよりも採用・維持コストが高い傾向があります。年収ベースでは700〜1200万円規模になることも珍しくありません。また、既存チームにSREの考え方を浸透させる教育費や、社内プロセスの整備も必要です。

・ツール導入・運用コスト
SRE実践には観測性の高いシステムが必要です。Prometheus、Grafana、Datadog、PagerDutyなどの導入・維持費用は、月額数万〜数百万円にも及ぶ場合があります。

・運用改善に関わるコスト
インシデント対応体制の見直し、SLO/SLIの設計、ポストモーテム文化の定着など、現場運用の"仕組み化"にもリソースが割かれます。これらは短期的に成果が見えづらいため、コスト感が膨らんで見える要因にもなります。

SRE導入費用の内訳


3.なぜ「高い」と感じるのか?

この疑問の根底には、「現在の運用コストや損失が見えていない」ことがあります。たとえば、インシデント1件あたりの平均対応時間(MTTR)が8時間だった場合、その間の事業損失・エンジニア工数・CS対応などを金額換算すると、1件で数十万〜数百万円の損害になることもあります。 さらに、信頼性が欠如した状態では、SaaSなどのサブスクリプションビジネスでは解約率(チャーン)に直結し、長期的な売上損失となって跳ね返ってきます。


4."投資対効果"の視点で見るSRE

SREを費用ではなく「投資」として捉えるには、具体的にどのような成果を生み出すのかを見える形にすることが重要です。SREがもたらす主な効果は、大きく以下の3つに分けられます。

① 信頼性の数値化とペナルティ回避
SLO(サービスレベル目標)を適切に設計・運用することで、SLA違反のリスクを可視化・予防できるようになります。これにより、契約違反によるペナルティや損害賠償リスクを事前に回避することが可能です。

② 障害対応の効率化による運用コスト削減
SREは、障害発生時の対応プロセスを標準化・自動化し、インシデントごとの平均対応時間(MTTR)を大きく削減します。その結果、エンジニアの稼働負荷、カスタマーサポートの対応件数、機会損失といった目に見えづらかった運用コストが低減されます。

③ エンジニア体験(Developer Experience)の向上
オンコール対応の最適化や、再発防止策の共有、アラートのノイズ削減といったSREの取り組みにより、エンジニアのストレスや離職リスクが軽減されます。これは、長期的に見れば採用・教育コストの削減にも繋がります。

SREの利点


5.コストを最小化しながら始めるには?

SREの全体導入には一定のコストがかかりますが、小さく始めて段階的に拡張することで、コストを抑えながら効果を得ることが可能です。

  • 段階的に導入する:いきなり専任SREチームを立ち上げるのではなく、既存の開発チームにSRE的思考を導入し、小規模な実践から始める。
  • SLO/SLIの定義から着手:可視化と目標設定により、信頼性とリソース配分の判断基準を明確にする。
  • 自動化できる領域から改善:アラート整理やデプロイ自動化など、即効性の高い部分に取り組む。


6.まとめ:SREは「高い」ではなく「将来を守る投資」

SREの導入にかかるコストは、たしかに初期投資としては大きく映るかもしれません。しかし、それは決して「消費的な支出」ではなく、サービスの継続性・顧客信頼・チームの健全性といった"将来の損失回避"に向けた戦略的投資です。

インフラの安定稼働やインシデントの削減は、単なる技術的なメリットにとどまりません。

それは、ユーザー体験の向上、チャーン率の低下、ブランド信頼性の向上へとつながり、結果的にビジネスの成長を支える基盤となります。

さらに、SREの実践によって得られる以下のようなメリットも見逃せません。

  • チーム内の疲弊を軽減し、離職率を下げる
  • SLOを活用して経営層との信頼性に関する共通認識をもてる
  • 「対応で手一杯」の状態から「予防と改善」に時間を使える文化を作れる


つまり、SREとは単なる運用モデルの刷新ではなく、信頼性を中心に据えた、開発・運用・ビジネスの連携を強化する文化的・戦略的な取り組みなのです。 「費用がかかるからSREは難しい」と捉えるのではなく、「見えない損失を減らすための価値ある投資」として捉え直すことが、SRE導入成功の第一歩となるでしょう。 貴社の状況に応じたSRE導入のご支援も可能です。ご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

▶︎お問い合わせはこちら



X(旧Twitter)・Facebookで定期的に情報発信しています!

関連記事

SRE実践の盲点: 多くのチームが見落とす5つのポイント

SRE導入後のよくある課題と本記事の目的 盲点①:ポストモーテムの形骸化 盲点②:モニタリングのカバレッジ不足 盲点③:自動復旧の未整備 盲点④:改善サイクルの不在 盲点⑤:カオスエンジニアリングの未導入 まとめ 1.SRE導入後のよくある課題と本記事の目的 Site Reliability Engineering(SRE)の導入は、サービスの可用性や信頼性を高めるための有効な手段として多くの企業に取り入れられています。しかし

記事詳細
SRE実践の盲点: 多くのチームが見落とす5つのポイント
SRE コラム
 人材不足に立ち向かうSREの力:次世代の運用体制をどう築くか

はじめに:運用現場の"人材不足"が引き起こすリスクとは? なぜSREが"人手に依存しない運用"を可能にするのか? 自動化・可観測性がもたらす省力化と再現性 従来の限界を超えた次世代の運用支援〜生成AI×SREの事例〜 今すぐ始めるためのSRE導入チェックリスト まとめ:人が足りない今こそ、SREという選択を 1.はじめに:運用現場の"人材不足"が引き起こすリスクとは? クラウド化やマイクロサービスの導入が進む中、IT運用の現場では

記事詳細
人材不足に立ち向かうSREの力:次世代の運用体制をどう築くか
SRE コラム
クラウド時代のセキュリティ運用最適化:SREが推奨する5つのポイント

はじめに 「ゼロトラスト」の考え方を取り入れる 設定ミスを防ぐ!インフラのコード化(IaC)を活用 「監視」と「インシデント対応」の自動化を強化 セキュリティパッチの適用を自動化する 社員のセキュリティ意識を高める まとめ 1.はじめに 最近、「クラウドを導入したものの、セキュリティ運用が複雑になって管理が大変...」といったお悩みを耳にすることが増えました。クラウドの柔軟性や拡張性を活かしつつ、どうすればセキュリティリスクを

記事詳細
クラウド時代のセキュリティ運用最適化:SREが推奨する5つのポイント
SRE コラム
VPNリスクの終焉とゼロトラスト時代のセキュリティ運用とは?

はじめに VPNに潜む"突破される前提"のリスク ゼロトラストとは? 「信用せず、常に検証する」 ゼロトラスト実現の3つの技術要素 専用製品がなくても始められるゼロトラスト ゼロトラストがもたらす運用の最適化 まとめ:ゼロトラストは「思想」であり、今すぐ始められる改革 1.はじめに 近年、リモートワークやクラウド活用が急速に進んだことで、企業のセキュリティモデルも大きな転換期を迎えています。従来の「社内ネットワーク=安全」とい

記事詳細
VPNリスクの終焉とゼロトラスト時代のセキュリティ運用とは?
SRE コラム

お問い合わせはこちらから