2025年6月アーカイブ


  1. SRE導入後のよくある課題と本記事の目的
  2. 盲点①:ポストモーテムの形骸化
  3. 盲点②:モニタリングのカバレッジ不足
  4. 盲点③:自動復旧の未整備
  5. 盲点④:改善サイクルの不在
  6. 盲点⑤:カオスエンジニアリングの未導入
  7. まとめ


1.SRE導入後のよくある課題と本記事の目的

Site Reliability Engineering(SRE)の導入は、サービスの可用性や信頼性を高めるための有効な手段として多くの企業に取り入れられています。しかし、導入後しばらくして「思ったより効果が出ない」「障害が減らない」「チームが疲弊している」といった課題を感じ始めるケースも少なくありません。多くの場合、その原因はSREの原則やツールセットそのものではなく、実践の中で見落とされがちな"運用上の盲点"にあります。特に、形式化したポストモーテムや適切でないモニタリング設計、自動復旧の不備などは、信頼性向上を妨げる大きな要因になり得ます。

本記事では、SREを導入しているにもかかわらず期待する効果を得られていないチーム向けに、見落とされやすい5つの実践上のポイントを取り上げ、それぞれの問題と対策を具体的に解説していきます。この記事を通じて、SREの真の価値を再発見し、継続的な信頼性向上へとつなげるヒントを得ていただければ幸いです。


2.盲点①:ポストモーテムの形骸化

SREの重要な実践の一つであるポストモーテム(障害の事後分析)は、学習文化の促進と信頼性向上のための鍵となるプロセスです。しかし、多くのチームではこのポストモーテムが単なる形式的な作業となってしまい、本来の目的である「根本原因の特定と共有」「継続的な改善」につながっていないケースが目立ちます。 たとえば、「誰が悪かったか」に焦点が当たってしまったり、テンプレートだけを埋めて終わるような対応では、同様の障害が再発し続ける危険性があります。さらに、学習した内容がナレッジとして蓄積・共有されなければ、組織全体での運用知識の向上も期待できません。

解決策:文化としてのポストモーテムを根付かせる

  • 責任追及ではなく学習重視の文化醸成
    ブレームレス(責任追及をしない)ポストモーテムを明示的に導入することで、誰もが安心して障害の経緯や判断ミスを共有できるようになります。

  • ナレッジ共有と振り返りの場を制度化
    障害報告書は社内Wikiなどにアーカイブし、定期的なレビューや振り返り会議を開催することで、学びの再利用が促進されます。

  • 再発防止タスクの可視化とフォローアップ
    改善アクションはJIRAやNotionなどのツールにタスクとして登録し、追跡可能な状態に保つことが再発防止の鍵です。


3.盲点②:モニタリングのカバレッジ不足

SREにおけるモニタリングは、システムの状態を定量的に把握し、インシデントの早期検知や原因特定を可能にする基盤です。しかし現場では、「とりあえず監視ツールを導入したが、アラートが出ない」「通知は来るが何を意味しているのかわからない」など、モニタリング設計そのものに抜けや偏りがあるケースが多く見受けられます。

典型的な問題としては以下のようなものがあります。

  • 重要なサービスレベル指標(SLI)が定義されていない

  • アプリケーションやエンドユーザーの体験に関するメトリクスが監視対象外

  • ノイズの多いアラートにより本当に重要なアラートが埋もれている

これでは、障害の兆候を事前に捉えたり、根本原因を迅速に特定することが難しくなります。

解決策:SLO設計とアラート最適化の再構築

  • SLI/SLOベースのモニタリング設計
    システムの信頼性を定義するSLI(例:成功率、レイテンシ)と、ユーザーに約束するSLO(目標値)を明確にすることで、「何を監視すべきか」が見えてきます。

  • ブラックボックス・ホワイトボックス両面の指標を整備
    外部から見た応答性(ブラックボックス)と、内部状態(CPU使用率やキュー長など)をバランスよくカバーする必要があります。

  • アラートの重要度整理とルール見直し
    アラートは「すぐに対応が必要なもの」と「後で確認すればよいもの」に分類し、優先順位を明確に。誤検知の多いアラートはしきい値や条件を再検討します。


4.盲点③:自動復旧の未整備

多くのSREチームでは障害対応の効率化を目指していますが、実際のインシデント対応が依然として人手頼りであることが少なくありません。障害発生時にオペレーション担当者が手作業で再起動や設定変更を行い、その対応が属人化してしまっていると、復旧までの時間が延び、運用負荷も高止まりします。 このような状況では、夜間や休日のオンコール対応の負担も大きくなり、チームの疲弊につながりかねません。さらに、人による操作はミスのリスクも伴い、信頼性の面でも課題が残ります。

解決策:自動復旧(Self-Healing)の段階的導入

  • Runbookの整備と自動化候補の洗い出し
    まずは、よくあるインシデントへの対応手順(Runbook)を明文化し、自動化が可能な部分をリストアップします。

  • スクリプトやオーケストレーションツールによる部分自動化
    例えば、「特定ログが出たらプロセスを再起動する」「メモリ使用率が一定値を超えたらスケーリングを実行する」といった単純対応から自動化を始めます。

  • リスクを抑えた段階的な導入戦略
    すべてを一気に自動化するのではなく、影響範囲の小さいサービスやテスト環境から導入し、安全性と効果を検証しながら本番へ適用していくことが重要です。

自動復旧は単なる効率化ではなく、SREが目指す信頼性の"自律化に向けた基盤でもあります。


5.盲点④:改善サイクルの不在

SRE導入初期は熱量を持って様々な施策に取り組んでいたものの、時間が経つにつれて活動が惰性になり、改善のサイクル(PDCA)が回らなくなるケースは多くの現場で見られます。 SLI/SLOの設定をしたまま見直されていなかったり、障害対応後の改善策が放置されたりと、継続的改善を阻む"惰性"が定着してしまうと、SREの本質的な価値が発揮されません。このような状態では、組織としての信頼性は徐々に低下し、「SREを導入した意味がない」と評価されてしまうリスクもあります。

解決策:信頼性向上のためのPDCAフローを制度化

  • 定期的なSLOレビューと指標の見直し
    サービスの成長や顧客要件の変化に応じて、SLOの内容や基準値を見直す体制を設けることが重要です。

  • 改善アクションのトラッキングと可視化
    ポストモーテムや定例会議で出た改善案をJIRAやBacklogなどでタスク化し、進捗管理の対象とします。経過が見えることで責任感と継続性が生まれます。

  • SREチームの成果をKPI化して経営と接続
    改善活動の成果を「平均復旧時間(MTTR)の短縮」や「エラーバジェットの消化率」といった指標で定量化し、経営層と共有することで活動の正当性を担保できます。

改善サイクルは、SREが単なる運用改善活動で終わらず、組織全体の信頼性戦略へと発展させるための土台です。


6.盲点⑤:カオスエンジニアリングの未導入

多くのSREチームは障害対応に力を入れている一方で、「そもそもどのような障害が起こり得るか」を予測的に検証する仕組みが存在しないことがしばしばあります。特に本番環境では、実運用に近い形で障害シナリオを試す文化が根付いていないため、想定外の障害に対して脆弱なシステム構成のままになっていることが多いです。 こうした課題に対処するための有効なアプローチが「カオスエンジニアリング」です。Netflixなどの先進企業が実践しているこの手法は、意図的に障害を発生させることで、システムの耐障害性(レジリエンス)を高めることを目的としています。

解決策:スモールスタートでのカオス実験導入

  • 低リスク環境での障害注入から開始
    いきなり本番で実施するのではなく、まずはステージング環境などでネットワーク遅延やサービス停止といったシナリオを試します。

  • 事前に回復戦略とモニタリング体制を整備
    カオス実験は「壊すこと」が目的ではなく、期待通りに回復できるかを検証することが目的です。そのため、事前に復旧手順やアラート設計が整っていることが前提です。

  • 結果をポストモーテム形式で記録・活用
    実験の結果を分析し、復旧の遅れや設計ミスがあれば改善タスクとして明確化します。これにより「準備された障害」にも強くなります。

カオスエンジニアリングは導入のハードルが高く感じられるかもしれませんが、段階的な導入と振り返りの仕組みがあれば、日常的な信頼性強化の一部として定着させることが可能です。

5つの盲点


7.まとめ

SREの導入はスタートに過ぎず、真の効果を引き出すためには、日々の運用に潜む"盲点"を一つひとつ潰していくことが不可欠です。

<本記事で紹介した5つの盲点>

①ポストモーテムの形骸化

②モニタリングのカバレッジ不足

③自動復旧の未整備

④改善サイクルの不在

⑤カオスエンジニアリングの未導入

これらは、多くのチームが直面しながらも見過ごしがちな落とし穴です。アクセルユニバースでは、これらの盲点を診断・整理し、継続的な改善を実現するためのSRE支援サービスを提供しています。自社の信頼性向上を次のレベルへ引き上げたいとお考えの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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  1. はじめに
  2. SREにかかる費用の内訳
  3. なぜ「高い」と感じるのか?
  4. "投資対効果"の視点で見るSRE
  5. コストを最小化しながら始めるには?
  6. まとめ:SREは「高い」ではなく「将来を守る投資」


1.はじめに

SRE(Site Reliability Engineering)を導入したい──そう考える企業が増える一方で、「費用が高すぎるのでは?」と導入に躊躇する声も聞かれます。しかし、SREにかかるコストは単なる"費用"ではなく、"将来的な損失を防ぐための投資"と捉えるべきです。本記事では、SRE導入にかかる具体的なコストと、それによって得られる効果や回収の視点を整理します。


2.SREにかかる費用の内訳

SRE導入には、以下のようなコストが発生します。

・人件費
SREエンジニアは、開発と運用の両スキルを備える必要があり、一般的なインフラエンジニアよりも採用・維持コストが高い傾向があります。年収ベースでは700〜1200万円規模になることも珍しくありません。また、既存チームにSREの考え方を浸透させる教育費や、社内プロセスの整備も必要です。

・ツール導入・運用コスト
SRE実践には観測性の高いシステムが必要です。Prometheus、Grafana、Datadog、PagerDutyなどの導入・維持費用は、月額数万〜数百万円にも及ぶ場合があります。

・運用改善に関わるコスト
インシデント対応体制の見直し、SLO/SLIの設計、ポストモーテム文化の定着など、現場運用の"仕組み化"にもリソースが割かれます。これらは短期的に成果が見えづらいため、コスト感が膨らんで見える要因にもなります。

SRE導入費用の内訳


3.なぜ「高い」と感じるのか?

この疑問の根底には、「現在の運用コストや損失が見えていない」ことがあります。たとえば、インシデント1件あたりの平均対応時間(MTTR)が8時間だった場合、その間の事業損失・エンジニア工数・CS対応などを金額換算すると、1件で数十万〜数百万円の損害になることもあります。 さらに、信頼性が欠如した状態では、SaaSなどのサブスクリプションビジネスでは解約率(チャーン)に直結し、長期的な売上損失となって跳ね返ってきます。


4."投資対効果"の視点で見るSRE

SREを費用ではなく「投資」として捉えるには、具体的にどのような成果を生み出すのかを見える形にすることが重要です。SREがもたらす主な効果は、大きく以下の3つに分けられます。

① 信頼性の数値化とペナルティ回避
SLO(サービスレベル目標)を適切に設計・運用することで、SLA違反のリスクを可視化・予防できるようになります。これにより、契約違反によるペナルティや損害賠償リスクを事前に回避することが可能です。

② 障害対応の効率化による運用コスト削減
SREは、障害発生時の対応プロセスを標準化・自動化し、インシデントごとの平均対応時間(MTTR)を大きく削減します。その結果、エンジニアの稼働負荷、カスタマーサポートの対応件数、機会損失といった目に見えづらかった運用コストが低減されます。

③ エンジニア体験(Developer Experience)の向上
オンコール対応の最適化や、再発防止策の共有、アラートのノイズ削減といったSREの取り組みにより、エンジニアのストレスや離職リスクが軽減されます。これは、長期的に見れば採用・教育コストの削減にも繋がります。

SREの利点


5.コストを最小化しながら始めるには?

SREの全体導入には一定のコストがかかりますが、小さく始めて段階的に拡張することで、コストを抑えながら効果を得ることが可能です。

  • 段階的に導入する:いきなり専任SREチームを立ち上げるのではなく、既存の開発チームにSRE的思考を導入し、小規模な実践から始める。
  • SLO/SLIの定義から着手:可視化と目標設定により、信頼性とリソース配分の判断基準を明確にする。
  • 自動化できる領域から改善:アラート整理やデプロイ自動化など、即効性の高い部分に取り組む。


6.まとめ:SREは「高い」ではなく「将来を守る投資」

SREの導入にかかるコストは、たしかに初期投資としては大きく映るかもしれません。しかし、それは決して「消費的な支出」ではなく、サービスの継続性・顧客信頼・チームの健全性といった"将来の損失回避"に向けた戦略的投資です。

インフラの安定稼働やインシデントの削減は、単なる技術的なメリットにとどまりません。

それは、ユーザー体験の向上、チャーン率の低下、ブランド信頼性の向上へとつながり、結果的にビジネスの成長を支える基盤となります。

さらに、SREの実践によって得られる以下のようなメリットも見逃せません。

  • チーム内の疲弊を軽減し、離職率を下げる
  • SLOを活用して経営層との信頼性に関する共通認識をもてる
  • 「対応で手一杯」の状態から「予防と改善」に時間を使える文化を作れる


つまり、SREとは単なる運用モデルの刷新ではなく、信頼性を中心に据えた、開発・運用・ビジネスの連携を強化する文化的・戦略的な取り組みなのです。 「費用がかかるからSREは難しい」と捉えるのではなく、「見えない損失を減らすための価値ある投資」として捉え直すことが、SRE導入成功の第一歩となるでしょう。 貴社の状況に応じたSRE導入のご支援も可能です。ご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

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  1. はじめに:運用現場の"人材不足"が引き起こすリスクとは?
  2. なぜSREが"人手に依存しない運用"を可能にするのか?
  3. 自動化・可観測性がもたらす省力化と再現性
  4. 従来の限界を超えた次世代の運用支援〜生成AI×SREの事例〜
  5. 今すぐ始めるためのSRE導入チェックリスト
  6. まとめ:人が足りない今こそ、SREという選択を


1.はじめに:運用現場の"人材不足"が引き起こすリスクとは?

クラウド化やマイクロサービスの導入が進む中、IT運用の現場では深刻な人材不足が表面化しています。 経済産業省の『IT人材需給に関する調査(概要)』(2019)では、2030年時点で最大79万人のIT人材が不足する可能性があると予測されており、特にインフラやシステム運用分野での人材確保が極めて難しい状況にあると明記されています。 この人材不足は、単なる"数"の問題にとどまりません。運用現場ではすでに、以下のような問題が顕在化しています。

  • 障害対応の遅延:トラブル発生時に即時対応できる体制が組めない
  • セキュリティリスクの増加:パッチ対応の遅れや設定ミスが生じやすい
  • 業務の属人化:特定のメンバーにしか対応できない領域が増え、退職がリスクに直結

このような状況下で、従来の"人海戦術"に依存した運用モデルでは立ち行かなくなってきています。今、本当に求められているのは、少人数でも高信頼・高可用性を実現する、持続可能な運用体制です。 その解決策として、注目を集めているのが SRE(Site Reliability Engineering)です。 SREは、Googleが提唱した手法で、システムの信頼性と可用性を向上させることを目的としています。手作業に依存せず運用の安定性と効率性を両立させる考え方です。人材不足という構造的課題を乗り越えるための、現実的かつ強力なアプローチといえるでしょう。


2. なぜSREが"人手に依存しない運用"を可能にするのか?

以下の3つの特徴が、SREが少人数運用を可能にする理由です。

① Toil(単純作業)の徹底排除と自動化

SREは、繰り返し発生する機械的・労働集約的な作業(=Toil)を可能な限り自動化することを最優先します。 例えば、 以下の「人が手を動かさなくても回る仕組み」を先に作ります。

  • 障害対応の自動復旧スクリプト
  • 定型的な監視アラートの自動チューニング
  • デプロイパイプラインのCI/CD自動化

結果として、限られた人員でも運用業務に追われることなく、本質的な改善に時間を割けるようになります。


② SLI/SLOによる"信頼性の定量管理"

SREでは、「なんとなく安定している」ではなく、サービスの信頼性を指標(SLI)と目標(SLO)で定量化します。 これにより、

  • どの程度の障害まで許容できるのか(エラーバジェット)
  • どの改善活動が最も効果的なのか

といった判断がデータに基づいて行えるようになり、無駄な人員投入や過剰対応を避けられます。


③再現性のある運用体制の構築

SREは、属人性の排除も大きなテーマです。手順を明文化した「Runbook(=運用手順書)」や、構成情報をプログラムで管理する「IaC(=Infrastructure as Code)」の導入により、以下の再現性の高い運用基盤が実現します。

  • 誰が見ても同じ手順で作業できる
  • 手動の設定ミスが減る
  • 新メンバーがすぐにキャッチアップできる

つまり、SREは「優秀な人を集める」ことを前提とした運用ではなく、「限られた人員で最大限の信頼性を引き出す」ための設計思想といえます。 これが、SREが人材不足時代において不可欠な戦略として注目されている理由です。


3. 自動化・可観測性がもたらす省力化と再現性

3-1.自動化による"ミスなき省力運用"の実現

SREが目指す自動化は、単なるシェルスクリプトの自動実行ではありません。 以下のような領域をシステムとして制御可能にすることを指します。

  • CI/CDの自動パイプライン:デプロイの品質と速度を同時に担保

  • 障害対応の自動リカバリ:例)Kubernetesによるポッドの自動再スケジューリング

  • インシデント通知とRunbook連携:PagerDutyやOpsgenieを活用した自動フロー

これにより、"ミスを許さない設計"を先に組み込むことで、人的リソースへの依存度を下げることができます。特に夜間や休日の対応など、手動対応が負担になる場面で大きな効果を発揮します。


3-2.可観測性による"再現性ある問題解決"の推進

人材が足りない現場では、「誰でも素早く正確に障害原因を特定できる」仕組みが不可欠です。そのために必要なのが、可観測性(Observability)の向上です。 従来の「監視(Monitoring)」は、CPU使用率やメモリなどのメトリクス中心でしたが、可観測性では以下のような3つのデータ軸を総合的に扱います。

  • メトリクス(Metrics):CPU、レイテンシ、リクエスト数
  • ログ(Logs):アプリやOSの記録情報
  • トレース(Traces):分散システムにおけるリクエストの流れ

ツールとしては、Prometheus+Grafana、OpenTelemetry、Datadog、New Relicなどが活用されており、 障害が起きた瞬間に「何が」「どこで」「なぜ」起きたのかを誰でも特定できる状態を実現します。これにより、属人性の高い"職人の勘"に頼らずとも、再現性と客観性のある障害対応が可能になります。 SREの現場では、自動化と可観測性を一体化させることで、「人手が足りない」ではなく、「人の介入がそもそも少なくて済む」環境そのものを構築することが重要視されています。


4. 従来の限界を超えた次世代の運用支援〜生成AI×SREの事例〜

生成AIとSREを融合させることで、従来の限界を超えた次世代の運用支援を実現できます。ここでは、実際のプロジェクトで見られた活用パターンとその成果を、事例ベースでご紹介します。

4-1.ケーススタディ:障害一次対応の自動化と省力化

ある製造業向けクラウドシステムでは、月間で平均50件以上のアラートが発生していました。その中には実際には対応不要な「誤検知アラート」も多く、運用担当者の疲弊と対応遅延が課題となっていました。この課題に対して以下のような生成AIとSREの連携アプローチが考えられます。

解決策

  • AIによるアラート内容の自然言語分類・優先度判断

    → 例)ChatGPT APIを活用し、アラート内容から"重大度・影響範囲"を分類

  • Prometheus+自動Runbook生成機能の連携

    → 例)対応フローをLLMが要約し、Runbookのドラフトを自動で作成

  • Slackへの自動通知と対応フロー提案

    → 例)SRE担当者に対応案を即時提示し、判断と対応を加速

成果

  • 誤検知アラートの手動確認時間が80%以上削減

  • 対応優先度のミスがゼロに

  • 運用者の「心理的負担の軽減」につながり、離職リスクの低減にも寄与


4-2.生成AIによる"ナレッジの非属人化"

別プロジェクトでは、長年特定エンジニアが担当していた運用プロセスの引き継ぎが困難という課題がありました。 そこで、過去の障害対応記録や手順書をLLMに学習させ、ナレッジベースの自動化と検索機能を構築することにより、新人エンジニアでも即時に「過去の類似事例」、「対処方法」、「関係システム」を自然言語で取得できるようになりました。 結果、OJT期間が2週間から5日に短縮され、現場の立ち上がりが大幅にスピードアップしました。 このように生成AIの柔軟性とSREの自律性を融合させることで、「少人数でも運用が回る」実践的な仕組みを提供しています。


5. 今すぐ始めるためのSRE導入チェックリスト

「SREを導入したいけれど、自社のような少人数体制で本当にできるのか?」という声はよく聞かれます。しかし、SREは大規模企業専用のものではなく、中小規模のチームでも段階的に導入できるフレームワークです。以下に、SREを無理なく始めるためのチェックリストをご用意しました。まずは「現状把握」と「小さな一歩」から始めてみましょう。

基本チェックリスト

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小さく始めるコツ

  • SLOを1つのサービスにだけ設定してみる

  • 毎週1つのToilを削減することにフォーカスする

  • まずはRunbookのドラフトだけでも作成してみる

  • 生成AIを使って手順書やFAQの自動化を試す

このように、"完璧を目指さない"ことが継続の鍵です。最初の一歩はとても小さくて構いません。まずはじめの一歩を踏み出すことが重要です。


6. まとめ:人が足りない今こそ、SREという選択を

IT運用の現場は今、未曾有の転換期にあります。

  • インフラは複雑化
  • サービスの可用性はビジネスの生命線
  • 人材が不足

こうした背景の中で、SREという考え方は「人がいないからこそ選ぶべき運用戦略」として、その真価を発揮します。 SREは、単なる運用自動化の手法ではありません。

  • 信頼性を定量的に管理
        →人間が対応しなくてよい作業を徹底的に削減
  • 属人化を排除した再現性ある運用体制を構築する

つまり、「限られた人材でも運用の質を落とさない」ための思想と仕組みといえます。 人手不足で困っているという状態で構いません。状況の整理から一緒に伴走させていただきます。何かお困り事がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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このページには、2025年6月に書かれた記事が新しい順に公開されています。

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