DEVELOPER’s BLOG

技術ブログ

VPNリスクの終焉とゼロトラスト時代のセキュリティ運用とは?

2025.04.03 髙橋 由子
SRE コラム
VPNリスクの終焉とゼロトラスト時代のセキュリティ運用とは?


  1. はじめに
  2. VPNに潜む"突破される前提"のリスク
  3. ゼロトラストとは? 「信用せず、常に検証する」
  4. ゼロトラスト実現の3つの技術要素
  5. 専用製品がなくても始められるゼロトラスト
  6. ゼロトラストがもたらす運用の最適化
  7. まとめ:ゼロトラストは「思想」であり、今すぐ始められる改革


1.はじめに

近年、リモートワークやクラウド活用が急速に進んだことで、企業のセキュリティモデルも大きな転換期を迎えています。従来の「社内ネットワーク=安全」という前提のもと構築された境界型セキュリティは、もはや万能ではありません。
特に注目されているのが「ゼロトラスト」という新たなセキュリティモデルです。本記事では、VPNのリスクを再認識しつつ、ゼロトラストをいかに実践的かつ段階的に導入できるかについて、日々の運用に直結する視点で掘り下げていきます。


2.VPNに潜む"突破される前提"のリスク

VPNは、長らくテレワーク環境でのセキュリティ手段として広く使われてきました。しかし、VPN装置の脆弱性を突いた不正アクセスは、企業や公的機関でも後を絶ちません。
たとえば2020年、ある官公庁ではVPN経由で1年以上にわたり不正アクセスが行われ、内部システムが侵害されました。また、某大手ゲーム会社では、古いVPN機器が踏み台にされ社内ネットワークへの侵入を許してしまい、顧客情報流出という深刻なインシデントに発展しています。
VPNが破られると、まるで「社内に鍵のない裏口ができた」状態になり、攻撃者は内部のどこまでも自由に移動できてしまいます。この「一度突破されたら終わり」という構造こそが、VPN最大の弱点なのです。


3.ゼロトラストとは? 「信用せず、常に検証する」

ゼロトラストは、「ネットワークの内側にいるから安全」という発想を根本から覆すモデルです。
その基本原則は非常にシンプルで、"Never Trust, Always Verify(決して信頼せず、常に検証する)" です。
ネットワークの内外を問わず、すべてのアクセスに対して認証・監視・制御を行うことで、内部での不正アクセスや"ラテラルムーブメント(横方向の攻撃の横展開)"を防ぐことができます。
重要なのは、「検証された結果としてのみアクセスが許可される」ことです。
これにより、「VPNで入ることができれば、すべての社内リソースに触れられる」といったリスクを根本から排除できます。


4.ゼロトラスト実現の3つの技術要素

ゼロトラストを実現するには、以下の3つの技術を柱として導入することが効果的です。

4-1. 多要素認証(MFA)

パスワードに加え、スマホ認証・生体認証・ワンタイムパスワード(OTP)などを組み合わせた認証方式です。
たとえパスワードが漏洩しても、他の要素がなければ突破できません。
特にVPNやクラウドアプリケーションへのアクセスには、最低限MFAを必須化すべきです。


4-2. マイクロセグメンテーション

ネットワークをアプリケーション単位・業務単位で細かく分割し、セグメント間の通信を厳格に制御します。万が一侵入されても攻撃の横展開を防げるため、ダメージを局所化できます。


4-3. 最小権限の原則(Least Privilege)

ユーザーやデバイスに業務上本当に必要なアクセス権のみを与える設計思想です。過剰な権限は脆弱性を生みます。これを徹底することで、万一の内部不正や誤操作にも強くなります。


5.専用製品がなくても始められるゼロトラスト

「ゼロトラスト=高額なソリューション導入が必要」と思われがちですが、実際には既存環境で工夫しながら段階的に取り組むことが可能です。

  • VPN+MFAの導入から
    既存VPNや社内アプリケーションに、スマホ認証アプリ(Google Authenticator等)によるOTP認証を組み合わせることで、MFAをすぐに実装できます。

  • ACL(Access Control List)やVLAN(Virtual Local Area Network)による論理分離
    ファイアウォールやスイッチの設定を見直し、部署・業務単位で通信を分離しましょう。マイクロセグメンテーションの簡易版として有効です。

  • 権限棚卸しとIAMの活用
    特権アカウントの整理、不要な共有アカウントの廃止を徹底し、IAMを活用した最小権限の実現を図りましょう。あわせて、SSO基盤を整備することで、アクセス管理の一元化とユーザー利便性の両立も可能になります。


6.ゼロトラストがもたらす運用の最適化

ゼロトラストの導入は、単にセキュリティを強化するだけではありません。
セキュリティ運用そのものを「効率化」するという側面も持ち合わせています。

  • アクセス制御の一元管理により、ポリシーの散在や重複を排除

  • 統合ログ監視による可視性の向上と、インシデント対応の迅速化

  • 同一ポリシー適用により、社内外でのルールのばらつきが解消

  • 管理対象の削減により、IT部門の負担が軽減

これにより、人的ミスの削減、コスト圧縮、そしてIT担当者の工数確保につながります。


7.まとめ:ゼロトラストは「思想」であり、今すぐ始められる改革

ゼロトラストは、単なるセキュリティ製品ではなく「思想」と「戦略」です。まずは、VPN+ID/パスワードの限界を正しく認識するところから始めましょう。
そしてMFAやネットワーク分離、権限整理といった今あるリソースでできることから一歩ずつ取り入れることで、リスクを大幅に減らし、運用も効率化できます。
「社内だから信頼する」という思い込みを捨て、「誰であっても、常に検証する」という新しい常識をチーム全体に浸透させていくことが、次世代のセキュリティ体制構築への第一歩となります。

関連記事

SRE導入で成果を上げるシステムとは?失敗しないための選定ポイント

はじめに SREが向いているシステムの具体例 SREの効果を引き出すための技術的な要件 SREが効果を発揮する環境の整備 導入事例:ある企業システムへのSRE適用例 まとめ 1.はじめに クラウド環境の最適化を検討されている方が、SRE(Site Reliability Engineering)について情報収集をされる際、どのようなシステムが向いており、どんな条件下で最大の効果を発揮するのかを理解することは効果的です。本記事では、

記事詳細
SRE導入で成果を上げるシステムとは?失敗しないための選定ポイント
SRE コラム
SREの現場でよく使われる用語3選

はじめに エラーバジェット(Error Budget):開発スピードと信頼性のバランス ポストモーテム(Postmortem):障害から学ぶ文化 トイル(Toil):非効率な運用作業を削減する まとめ 1.はじめに 日々進化するデジタルサービスの世界では、システムの安定性と開発スピードのバランスを取ることが求められます。しかし、現場のエンジニアの皆さまは、「システムの信頼性を確保しながら、どうやってスピーディに新機能をリリースできるの

記事詳細
SREの現場でよく使われる用語3選
SRE コラム
SRE導入において信頼できる業者とは?注意すべき点は?

はじめに 信頼できるSRE業者の特徴 SRE業者選定時の注意点 まとめ 1.はじめに 近年、システムの安定性と運用効率を向上させるためにSRE(Site Reliability Engineering)を導入する企業が増えています。しかし、SREの導入には専門知識と経験が必要であり、適切な業者を選定することが成功の鍵を握ります。本記事では、SRE導入において信頼できる業者の選び方と注意すべきポイントを解説します。 2.信頼できるSRE業者

記事詳細
SRE導入において信頼できる業者とは?注意すべき点は?
SRE コラム
SREで重要となるSLA、SLO、SLIとは!?

はじめに SLA、SLO、SLIの定義と相互関係 SLA、SLO、SLIが連携して品質管理を実現する流れ これらの連携がSREにおいて重要な理由 SLA、SLO、SLIの考え方を練習しよう まとめ 1.はじめに SRE(Site Reliability Engineering)は、Googleが提唱した運用手法で、システムやサービスの安定性と信頼性を高め、サービス停止や障害を防ぐことで顧客にとって高品質な体験を提供することを目的と

記事詳細
SREで重要となるSLA、SLO、SLIとは!?
SRE コラム

お問い合わせはこちらから