2025年3月アーカイブ


  1. はじめに
  2. SREが向いているシステムの具体例
  3. SREの効果を引き出すための技術的な要件
  4. SREが効果を発揮する環境の整備
  5. 導入事例:ある企業システムへのSRE適用例
  6. まとめ


1.はじめに

クラウド環境の最適化を検討されている方が、SRE(Site Reliability Engineering)について情報収集をされる際、どのようなシステムが向いており、どんな条件下で最大の効果を発揮するのかを理解することは効果的です。本記事では、システムよりの具体例や技術的観点を交えて、「SREが適したシステム」と「効果を引き出すポイント」を詳しく解説します。


2.SREが向いているシステムの具体例


2-1.高可用性が必須な業務基幹システム

企業の中核を担う基幹システムは、業務の停止が直接的な損失や信頼の低下につながるため、SREの手法を取り入れることで信頼性を向上させられます。


・ERPシステム

販売管理、在庫管理、財務会計などを一元管理するERPシステムは、停止すると事業運営全体に影響を及ぼします。SREでは、システムダウンを未然に防ぐためのモニタリングや予測分析を導入し、ダウンタイムを最小化します。


・顧客管理システム(CRM)

クラウド型CRMシステムやオンプレミスCRMは、営業やカスタマーサポートの効率化に重要です。ここでのSLO設定(例: サーバ応答時間95%以内に100ms)やエラーバジェットの活用は、ユーザー満足度を高める鍵となります。


2-2. ミッションクリティカルなシステム

特に外部ユーザーや顧客が直接利用するシステムでは、障害がブランドや収益に影響を与えるため、SREの価値が大きく発揮されます。


・オンライン決済システム

決済処理では、1秒の遅延やエラーが信用損失につながります。SREでは、冗長構成や継続的な負荷テストを通じて高い可用性を確保します。


・物流システム

配送トラッキングや倉庫管理システムでは、リアルタイム性が重要です。分散システムの監視や障害発生時の迅速な切り替えをSREのアプローチで実現できます。


2-3. クラウドネイティブなシステム

クラウド技術を採用している場合、SREの手法は特に効果的です。


・コンテナオーケストレーション

Kubernetesなどのオーケストレーションツールを使用している場合、SREによる自動化が効果を発揮します。Podのスケールアウト/スケールインやフェイルオーバーの最適化がその一例です。


・サーバレスアーキテクチャ

サーバレス環境(例: AWS Lambda、Google Cloud Functions)では、オンデマンドでスケールする仕組みがあるため、SREによるモニタリングやパフォーマンス最適化が重要です。


3.SREの効果を引き出すための技術的な要件


3-1.明確なSLO/SLIの設定

SREの導入は、信頼性目標(SLO: Service Level Objective)が明確であるほど効果を発揮します。


SLO/SLI設定の具体例

・応答時間

Webアプリの応答時間を「95%のリクエストが200ms以下」と設定し、これをSLIで定量的にモニタリング。


・エラー率

APIリクエストの成功率を99.95%以上に保つ目標を設定し、これを監視ツールで追跡。


・ダウンタイム

月間許容ダウンタイムを「43.2分以内」(99.9%稼働)と設定し、エラーバジェットに基づいて適切な運用を実現。


3-2.モニタリングとアラートの強化

システムの信頼性を向上させるには、リアルタイムのモニタリングと自動アラートの整備が必要です。


使用可能なツール例

・インフラ監視

Prometheus、Zabbix、Datadogなどを活用し、CPU使用率やディスクI/Oを監視。


・アプリケーション監視

New RelicやAppDynamicsでトランザクション応答時間を可視化。


・ログ管理

ElasticsearchやSplunkでエラーログの集中管理と迅速な検索。


3-3. 自動化の推進

SREの効果を引き出すには、運用タスクを極力自動化することが重要です。


・自動デプロイ

CI/CDツール(例: Jenkins、GitLab CI)を使い、デプロイメントの迅速化とエラー削減を実現。


・リソース管理

Infrastructure as Code(例: Terraform、Ansible)でクラウドリソースの一元管理を行い、変更のトレーサビリティを確保。


・異常検知の自動化

AI/MLを活用した異常検知(例: DatadogのAnomaly Detection)で、潜在的な問題を早期に特定。

SREのメリット


4. SREが効果を発揮する環境の整備


4-1.文化とプロセスの改革

SREは単なる技術ではなく、文化改革でもあります。システム企画部門が率先して以下を推進することが重要です。


・開発と運用の連携(DevOps)

システムダウンは顧客の信頼を損ない、ブランドイメージに悪影響を与えます。SREがシステムの安定稼働を支えることで、顧客離れのリスクを最小限に抑えられます。


・障害を許容する文化

「障害ゼロ」ではなく、エラーバジェットを活用し、許容範囲内での失敗を容認する仕組みを導入します。


4-2.段階的導入のすすめ

SREを全社的に導入する前に、次のような段階的なアプローチを取ることを推奨します。


・パイロットプロジェクトを設定

特に影響度の高いシステムや新規プロジェクトに限定してSREの実験的導入を行います。


・成功事例の展開

成果をもとに他のシステムへ展開し、組織全体での運用改善を目指します。


4-3.コストとROIの評価

SREの導入には初期投資が必要です。システム企画担当者としては、コストと効果のバランスを見極めることが大切です。


主なコスト要因:

・ツールライセンス

・エンジニアのトレーニング

・文化改革に必要な時間とリソース


投資効果の測定例

・障害発生時の復旧時間(MTTR: Mean Time to Recovery)の短縮。

・予定外のダウンタイムの減少による業務への影響削減。

・顧客満足度や信頼性向上による利益拡大。


5. 導入事例:ある企業システムへのSRE適用例


背景

ある製造業の企業では、クラウド上に顧客注文管理システムを構築していました。しかし、頻繁に発生するサーバ負荷問題とダウンタイムにより、顧客クレームが急増していました。


対応内容

1.SLOの定義

「95%のリクエストを1秒以内に処理する」という目標を設定。


2.監視とアラートの導入

Datadogでシステム全体をリアルタイムで監視し、CPUスパイク時にアラートを発生。


3.スケーリングの自動化

Kubernetesを利用して、トラフィック増加時にコンテナを自動スケール。


結果

・ダウンタイムが月間2時間から10分以下に減少。

・顧客満足度が15%向上。

・システム運用コストが10%削減。


6. まとめ

SREは特定の条件下で大きな効果を発揮するアプローチですが、すべてのシステムに適用すべきとは限りません。自社システムの特徴を分析し、SREの導入が適切かどうかを慎重に判断する必要があります。 リスクの少ないはじめ方として、パイロットプロジェクトを設定し、段階的にSREの導入を進めることで、リスクを抑えながら効果を最大化できます。




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  1. はじめに
  2. エラーバジェット(Error Budget):開発スピードと信頼性のバランス
  3. ポストモーテム(Postmortem):障害から学ぶ文化
  4. トイル(Toil):非効率な運用作業を削減する
  5. まとめ


1.はじめに

日々進化するデジタルサービスの世界では、システムの安定性と開発スピードのバランスを取ることが求められます。しかし、現場のエンジニアの皆さまは、「システムの信頼性を確保しながら、どうやってスピーディに新機能をリリースできるのか?」というジレンマを抱えているのではないでしょうか。

そんな課題を解決するために生まれたのが「SRE(Site Reliability Engineering)」というアプローチです。本記事では、SREの実践に欠かせない3つのキーワード「エラーバジェット」「ポストモーテム」「トイル」を取り上げ、それぞれの意味と活用法をわかりやすく解説します。

開発チームと運用チームが円滑に連携し、より良いサービスを提供するためのヒントとして、ぜひご一読ください。


2.エラーバジェット(Error Budget):開発スピードと信頼性のバランス

エラーバジェットとは?

エラーバジェットとは、GoogleのSREチームが導入した概念で、SLO(Service Level Objective)を基に「どの程度の障害が許容されるか」を数値化したものです(出典: O'Reilly『Site Reliability Engineering』)。この考え方により、開発チームは安全な範囲で新機能をリリースでき、信頼性とイノベーションのバランスを取ることが可能になります。


事例:エラーバジェットの活用によるデプロイ最適化

あるクラウドサービス企業では、「99.95%の可用性」をSLOとして設定し、それを超えない範囲で開発を進める仕組みを導入しました。この仕組み(エラーバジェット)を活用することで以下のような運用が可能になります。

  • SLOが安全な範囲内では積極的に新機能をリリース
  • 障害が発生し、エラーバジェットが枯渇するとデプロイを制限し品質向上に注力

このアプローチにより、開発チームと運用チームは共通の指標を持ち、デプロイのリスクを定量化しながらバランスの取れた開発サイクルを実現できます。


注意すべき点

エラーバジェットをうまく活用しないと、

  • 障害が発生しているのに開発を優先してしまう
  • 逆に慎重になりすぎて、開発スピードが落ちる

GoogleのSREチームは、「エラーバジェットは計画的に活用することが重要であり、完全になくすことを目標にするのではない」と述べています(出典: 『Site Reliability Engineering』)。つまり、信頼性を確保しつつ、エラーバジェットを最大限活用することで、開発のスピードと安定性の最適なバランスを維持することが求められます。


3.ポストモーテム(Postmortem) : 障害から学ぶ文化

ポストモーテムとは?

ポストモーテムは、システム障害発生後に実施する詳細な分析プロセスであり、GoogleのSREチームによって確立されました。このプロセスの目的は、「誰がミスをしたか」ではなく、「なぜミスが起こったのか」を理解し、再発防止のための対策を講じることです(出典: O'Reilly『Site Reliability Engineering』)。


事例:ポストモーテムの導入による障害対応の改善

あるeコマース企業では、過去に大規模なシステム障害を経験しました。この障害は、データベースの負荷増大と適切なスケーリング対策の不足が原因で発生しました。復旧には数時間を要し、多くのユーザーがアクセスできない状況となり、顧客満足度にも悪影響を及ぼしました。

この経験を踏まえ、同社ではポストモーテムの文化を導入し、以下の取り組みを実施しました。

  • すべての重大な障害について詳細なレポートを作成
  • 障害の根本原因を特定し、システム改善につなげる
  • 関係者全員で共有し、今後の運用改善に活かす

この取り組みにより、同社の障害対応プロセスは大幅に向上し、類似の問題が発生する頻度が減少しました。また、ポストモーテムの実施を通じて、技術的な改善だけでなく、チーム全体の障害対応スキルの向上にもつながりました。

Googleは、ポストモーテムを「技術的な進化を加速させるための手段」と位置づけており、単なる問題報告ではなく、組織全体での学習と改善を目的とすることが重要だと強調しています。組織的にポストモーテムを実施し、継続的に改善を積み重ねることが、より信頼性の高いシステム運用につながるのです。


注意すべき点

ポストモーテムを有効に機能させるには、

  • 「責任追及」ではなく「学びの場」として運用する
  • 根本原因を明確にし、対策を具体的に定める


4.トイル(Toil) : 非効率な運用作業を削減する

トイルとは?

Googleの定義によると、トイルとは「手作業が多く、反復的で、自動化可能な運用作業」を指します。SREの基本理念のひとつに「トイルの削減」があり、エンジニアがより価値のある作業に集中できるようにすることが求められます(出典: O'Reilly『The Site Reliability Workbook』)。


事例:トイル削減による運用の効率化

あるWebサービス企業では、システム監視のアラート対応がエンジニアにとって大きな負担となっていました。頻繁に発生するアラートへの対応に多くの時間を取られ、本来注力すべき開発業務に影響が出ていたのです。

そこで、同社は以下の取り組みを実施しました。

  • 繰り返し発生するアラートの自動対応スクリプトを作成
  • ログ分析の自動化を導入し、手作業を削減
  • 定期的なメンテナンス作業を自動化

これらの取り組みにより、エンジニアの手作業が大幅に削減され、より価値のある業務に集中できるようになりました。

この手法はGoogleのSREチームでも採用されており、Googleは「SREは運用作業の50%以上をトイルの削減に使うべき」と推奨しています。つまり、SREの役割は単なるシステム管理ではなく、運用の自動化と効率化を進めることで、信頼性の高いサービスを維持しながら開発のスピードを向上させることにあります。


注意すべき点

トイル削減を効果的に進めるには、

  • 「単なる自動化」ではなく、本質的な業務改善を目指す
  • 過剰な自動化によるシステムの複雑化を避ける
  • SLO(サービスレベル目標)とのバランスを取る
  • チーム全体での合意を形成する


5.まとめ

SREの現場では、「エラーバジェット」「ポストモーテム」「トイル」といった概念が、システムの安定性と開発の柔軟性を支える重要な要素として機能しています。

  • エラーバジェットを活用することで、開発スピードと安定性のバランスを最適化
  • ポストモーテムを実施することで、障害対応の質を向上させ、継続的な改善を促進
  • トイルを削減することで、エンジニアの生産性を向上させ、より価値のある作業に集中可能に

これらの概念をうまく組み合わせることで、信頼性の高いシステム運用を実現し、開発スピードを維持することができます。アクセルユニバースでは、これらの手法を活用し、システムの安定性を最大化するソリューションを提供しています。ぜひ、貴社のSRE戦略にもご活用ください。

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