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SREとは何か? システム運用から顧客体験を向上させる秘訣

2024.12.02 竹中 涼香
SRE コラム
SREとは何か? システム運用から顧客体験を向上させる秘訣


  1. はじめに
  2. システムの健康診断を超えて:SREの価値とは?
  3. SREがもたらす「攻め」の価値:エラーバジェットの考え方
  4. 顧客体験向上に直結するSREの役割
  5. 総合診療としてのSRE:ビジネスとシステムの架け橋
  6. SREの未来:システム運用を超えた価値創造
  7. まとめ


1.はじめに

SRE(Site Reliability Engineering)は、単なるシステム運用の効率化や信頼性向上に留まりません。ビジネスの要求に応えつつ、顧客体験を向上させるためには何が必要かを常に考え、実践する多面的なアプローチが求められます。その役割は、まるでシステムの「総合診療医」ともいえる存在です。


2.システムの健康診断を超えて:SREの価値とは?

一般的に、SREの取り組みはシステムの安定稼働や障害対応、自動化、セキュリティ強化など、技術的な課題にフォーカスされがちです。しかし、それだけでは十分ではありません。システムが正常に稼働することはもちろん重要ですが、その先にある「ビジネスへの貢献」や「顧客体験の向上」を視野に入れることで、真の価値を発揮します。

たとえば、大規模なシステム障害が発生すれば、単に復旧作業を行うだけでなく、その障害がどのように顧客体験やビジネス成果に影響を与えたかを分析し、再発防止策に反映させる必要があります。SREは、技術のスペシャリストであると同時に、ビジネス価値を創出する「戦略的パートナー」としての役割を果たすべき存在です。

SREの目的

3.SREがもたらす「攻め」の価値:エラーバジェットの考え方

SREの中心的な考え方のひとつに「エラーバジェット」があります。エラーバジェットは、許容できるシステム停止時間を数値化したもので、信頼性と新機能開発のバランスを取る指標として機能します。


エラーバジェットの仕組み

1.定義

例えば、月間稼働率を99.9%に設定した場合、43.2分の停止が許容されます。この範囲内であれば、新機能開発や改善作業を積極的に進められます。


2.活用例

エラーバジェットが十分に残っている場合、リスクを取って新しい機能をリリースし、顧客価値を高めることが可能です。 逆に、エラーバジェットを超えた場合は、安定性を最優先し、リリースを一時停止するなど、システムの改善に専念します。

エラーバジェットのとは?

この仕組みにより、SREは「攻め」と「守り」の両立を図りながら、システムの成長と安定性をバランス良く保つことができます。


4. 顧客体験向上に直結するSREの役割

SREの最終的な目標は、エンドユーザーの体験を向上させることにあります。単にシステムを止めないだけでなく、次のような形で顧客満足度や企業の成長に貢献します。


4-1.コスト削減と再投資

SREの取り組みによって運用コストを削減できれば、その余剰資金を新しいサービスや機能開発に再投資できます。例えば、効率化したインフラ運用費用を新商品の開発や顧客サポート体制の強化に回すことで、顧客体験を向上させることが可能です。


4-2.ブランドイメージの保護

システムダウンは顧客の信頼を損ない、ブランドイメージに悪影響を与えます。SREがシステムの安定稼働を支えることで、顧客離れのリスクを最小限に抑えられます。


4-3.障害の影響を最小化

障害が発生した場合、迅速な復旧や影響範囲の限定化を実現することで、顧客が感じる不便を最小限に抑えます。これにより、障害発生時でも顧客満足度を一定に保つことが可能です。

SREの役割


5. 総合診療としてのSRE:ビジネスとシステムの架け橋

SREは、「システム」と「ビジネス」の両方を理解し、両者を結びつける役割を担っています。この視点で見たとき、SREには次のような特徴があります。


5-1.システムとビジネスを包括的に見る能力

SREは、技術的な側面だけでなく、ビジネス目標や顧客ニーズを深く理解し、それに即した運用改善や新機能の提案を行います。たとえば、売上に直結する重要なシステムの稼働を優先的に保証する一方、リスクが低い部分では柔軟性を持たせるといった判断が求められます。


5-2.分断された組織の架け橋

多くの企業では、システム部門とビジネス部門が分断され、協力がスムーズに進まないことがあります。SREは、その間に立ち、技術的視点とビジネス視点をつなぐことで、組織全体の効率を高めます。

SREの役割


6.SREの未来:システム運用を超えた価値創造

SREは、システム運用の専門家から、ビジネス成長を支えるパートナーへと進化しつつあります。今後のSREには、次のような期待が寄せられています。


1.予測可能な運用

AIや機械学習を活用し、障害を未然に防ぐ運用体制の構築。


2.顧客中心の戦略

顧客満足度を重視した新しいKPI(Key Performance Indicator)の設定と管理。


3.ビジネス貢献の明確化

運用改善がビジネス成果に与える影響を定量化し、企業全体の価値を可視化。


7. まとめ:SREは「攻め」と「守り」の要

SREは、単なるシステム運用の枠を超えた多面的な取り組みを通じて、企業全体の成長を支えるエンジンとなります。顧客体験の向上、コスト削減、ブランド保護といった効果を最大化するには、SREを「総合診療」として捉え、ビジネスと技術のバランスを常に意識する必要があります。

今後もSREは進化を続け、企業にとって欠かせない存在となっていくでしょう。技術とビジネスを結びつけるこの新しい役割を積極的に取り入れることが、未来の成功を左右する鍵となるはずです。

攻めと守りの役割




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