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【データ分析基盤】利活用を成功させる構築、2つの"秘訣"
データ分析基盤構築とは、大量のデータを蓄積・変換・分析するためのインフラを開発することです。主軸となるデータレイク・データウェアハウス・BIツールの他、NoSQLデータベース、データパイプラインツール、ETLツールなど様々な要素があり、それぞれ様々なベンダーから多種多様な製品が出ています。
比較項目は膨大で、複雑です。性能・機能・セキュリティ・コスト......一体何を基準に選べばよいのでしょうか。当社には一つの戦略があります。それは、
" 分析ツールはコスト最適性で、データ基盤は運用性で選ぶ。 "
これがデータ利活用を成功させるための鍵です。以下のように、2つのポイントに分けられます。
詳しく解説していきます。
秘訣①BIツールの二極化と、「コスト最適」な配分
まずは実際に、分析ツールの費用をご紹介しましょう。データ利活用の最初に導入するデータ分析ツールとしては、BIツールが一般的です。TableauとQuickSightという2つのBIツールを比較します。1,000人の従業員が利用する場合、支払額は次のようになります。
[ケース1]
- Tableau:約3,000万円/年
- QuickSight:約800万円/年
3〜4倍の差です。
極端な例ではありません。BIツールの価格は二極化しており、このくらい高いか、安いか、どちらかです。最初に適切な製品を導入できないと、その後毎年不必要なコストがかかり続けてしまいます。
とはいえ高価なツールには、独自の機能や、高度な利用をする際の使いやすさがあります。例えばTableauはドラッグ&ドロップのような直感的な操作によって、簡単・迅速にデータ分析ができ、分析を主務とするユーザーに向いています。ただ一律に安価なものを導入すると、結局機能が不足してデータ利活用が進まないという本末転倒の事態になるでしょう。
「安ければいい」でも「高機能であればいい」でもなく、「必要な利用者にだけ必要な機能を」。それが「コスト最適化」の観点です。具体的には、
- 自社のニーズを洗い出し、
- 「誰が・どんなタスクを・どの程度」できる必要があるかを見極め、
- それぞれに必要十分なツールを用意すること。
これによってコスト最適な利活用推進を図ることが重要なのです。
ツール配分の例を考えましょう。先ほどの従業員1,000人のうち、データからインサイトを得るための分析業務を行うのは経営戦略部と店舗開発部の計100人で、その他の900人はあらかじめ作成された可視化ダッシュボードを日々の業務で参照するだけだとします。分析を行う100人(とツールを管理するエンジニアチーム)がTableauを利用し、残りの900人はQuickSightを利用するのが適切です。費用は以下の通りです。
[ケース2]
- Tableau:約700万円/年
- QuickSight:約800万円/年
- 合計:約1,500万円/年
さらに、従業員に対する細かいアクセス権限の設定などが不必要である場合、QuickSightの代わりに無料の Looker Studio を利用できます。この場合、費用はさらに安くなります。
[ケース3]
- Tableau:約700万円/年
- Looker Studio:0円/年
- 合計:約700万円/年
これはあくまで簡単な例ですが、「分析か/可視化か」「細かいアクセス権限管理が必要か/不要か」という観点は一般的なものです。自社のニーズをこのような形で整理し、それに合った適切なツールを選んでいくというイメージをつけましょう。
では具体的に、どのようなツールがあるのでしょうか。高価・高機能なものでは、Board、Domo、Qlikといった有名製品にそれぞれ特長がありますが、AIによる自然言語処理で直感的に使えるThoughtSpotのような製品も生産性を向上し、使い始めのハードルを下げるでしょう。安価なものはGoogleの Looker Studio が代表的ですが、OSSのMetabaseも、自動でダッシュボードを生成してくれるX-rayという機能に魅力があります。
秘訣②利活用に必要な「運用性の高いデータ基盤」
「データ基盤」とは、データを利用可能な形で蓄積するためのインフラストラクチャのことです。と一口に言っても、実際にはデータパイプライン・データレイク・ETL・データウェアハウスと、多くの構成要素があります。それぞれの構成要素を動かすのに必要なプログラムや設定の項目は非常に多く、開発や運用の工数が大きくなります。分析ツールが費用の勘所であるのに対して、データ基盤はいわば工数の勘所です。
しかし本当に工数を割くべきなのは、開発や運用ではありません。要件定義とそれに基づく継続的デリバリーに力を入れてこそ、将来の成功があります。データ基盤の構築はDXやクラウド移行と似ており、現行のシステムや業務自体の変化を伴うものです。様々なステークホルダーへの説明・ヒアリング・調整が不足していれば、プロジェクトは失敗へ向かいます。一方で、プロジェクトのエンジニアチームが主体となって調整を行い、使う人たちにとって使いやすいデータ基盤を構築することができれば、利活用は順調な滑り出しを迎えられます。データ基盤は一度出来上がった後でも現場から様々な要望が舞い込んできますが、それに応じられるコミュニケーション体制も確立できるはずです。
そのため、エンジニアチームがコミュニケーションに時間を割けるように、データ基盤では保守運用性の高い構成を選択し、開発工数も抑えることが重要になります。
その視点で一般的に優れているのは、基盤をAWSサービスだけで構築することです。AWSでは、データウェアハウスのメンテナンス自動化、アクセス権限やメタデータの管理一本化などの恩恵を得られます。また、AWS上に構築されることの多い対向業務システムとの連携もスムーズです。
もちろん、どのような場合でもAWSがベストな訳ではありません。Google Cloudは先進的な性能によって、データ基盤市場に確固たる地位を築いています。データウェアハウスについては、独自の機能と料金システムで支持を伸ばしているSnowflakeも検討の余地があります。
データ利活用のスタートダッシュ
"分析ツールはコスト最適性で、データ基盤は運用性で選ぶ。"というテーマについて解説してきました。それでは、なぜこれが望ましい戦略なのでしょうか。それは、「データ利活用/データドリブン経営を、最低限のコストで、スムーズに始められる」からです。このうち「最低限のコスト」については、分析ツールを適切に選ぶことで高すぎる負担を避けられるということが、まずあります。運用性の高いデータ基盤も、保守・改修を含めたTCOを抑えることで、コストカットに繋がります。
では、「スムーズに始められる」とはどういうことでしょうか。データ利活用/データドリブン経営の「スムーズな開始」を阻む要因は、主に2つ考えられます。1つ目は「利用者のリテラシー不足」で、「ツールの操作がわからない」「データが何に使えるのかわからない」といったものです。2つ目は「エンジニアの設計ミス」で、「ツールのスペックが足りない」「使い物にならないデータを生成している」などです。この2種類の失敗は、「基盤を使う人たちとエンジニアチームのコミュニケーション不足」という1つの失敗から出てくる結果に過ぎません。
基盤構築の段階から、エンジニアチームが積極的に利用者に関わっていくことが重要なのです。コミュニケーションを重ねることで、利用者がデータを理解していくことができます。エンジニアチームの側も、フィードバックから要件定義、製品選定やスキーマ設計のヒントを与えられます。
「コスト最適に・スムーズに始める」ことにゴールを置いて基盤構築をすれば、その後のデータカルチャーの浸透、データによる収益拡大といった経営目標へと繋がっていくでしょう。そのためには、分析ツールはコスト最適性で、データ基盤は運用性で選ぶことになります。
最適な製品選定と要件調整のご提供
アクセルユニバース株式会社では、当社の掲げる「顧客中心主義」に基づいて、お客様に合わせた最適な分析ツール・データ基盤を立案・開発いたします。お客様の状況をヒアリングし、適切なプランをご提案することを得意とする企業です。
また、必要に応じて、お客様部署間のファシリテーションなどの総合的なITコンサルティングを提供しております。
まずは追加でお聞きになりたい情報から、お気軽にご相談ください。
BIツールの費用計算
いずれも記事公開時点での情報です。1ドル=150円、有効数字1桁としました。 Tableau公式の価格情報 、AWS公式の料金情報 をもとに計算しています。
[ケース1] Tableau:「Tableau Creator」10人、「Tableau Explorer」100人、「Tableau Viewer」890人。 QuickSight:「管理者」10人、「作成者」100人、「閲覧者」890人。
[ケース2] Tableau:「Tableau Creator」10人、「Tableau Explorer」100人。 QuickSight:「管理者」10人、「作成者」100人、「閲覧者」790人。
[ケース3] Tableau:「Tableau Creator」10人、「Tableau Explorer」100人。 Looker Studio:無料ユーザーのみ。